トーク:litoy’a nsombo

最新のコメント:1 年前 | トピック:ヒゴロモコンロンカではないか? | 投稿者:エリック・キィ

ヒゴロモコンロンカではないか? 編集

 普通はこの様に対象の分類がまるではっきりしないものに関しては項目を作成する事はないのですが、今回の場合は対象が何であるか目星はついているものの後一押しが足りないという状態である為、確実である〈植物名である〉という事が分かる内容で項目を作成の上、ノートに私が把握している不確定の情報を記しておく事とします。

 このモンゴ語の litoy’a nsombo はヒゴロモコンロンカ (Mussaenda erythrophylla) を指している可能性があります。旧ベルギー領コンゴ、つまり現在のコンゴ民主共和国の植物相に関する文献にヒゴロモコンロンカと同定された標本と、同種を指す現地語名を列挙した文献が2つ存在し、そのいずれにおいても以下の様に文字通りの意味が〈豚の耳〉とされています。

De Wildeman (1923) では Vermoesen が標本163番をドゥンドゥサナなる場所の近くにあるヤンブクという場所で採取したとされています。そしてこの標本はベルギーのメイゼ植物園に現存し(BR0000019760513)、そこには現地語名とその逐語訳が記され、また1954年(の5月?)にプティが鑑定を行った痕跡が残されています。この現地語名は何らかのバントゥー語と思われるのですが、バントゥー語はカメルーンのものを除き基本的に語は全て開音節であり、プティが示した "Jtoi" はバントゥー語としては不自然です。先述の鑑定の痕跡や、上記の様に論文上でプティ自身が示したヤンブク産の標本に関する情報が1921番という番号以外全て De Wildeman が挙げたものと一致する事から、プティは同じ標本を見たものの現地語名の筆記を読み間違え、更に論文を出版するまでの過程で番号にまで手違いが生じたと私は見ております。従ってヒゴロモコンロンカのヤンブクにおける呼称として記録されたのは itoi ya nsombo というものであったと推定する事が可能です。

 問題となるのは、このヤンブクで話されていた言語が具体的に何であるのか明記されておらず、しかもモンゴ語ではなさそうという事です。De Wildeman もプティも地名と言語名とが明確に区別が可能な書き方をしており、ヤンブクは地名であるという事ははっきりと読み取る事ができます。そして現在のコンゴ民主共和国北部、コンゴ川より北にかつて(といっても Vermoesen の採取活動よりは後)エボラ出血熱が大流行したヤンブク(Yambuku)という地が存在するのですが、まずこれと De Wildeman らのいうヤンブクとが全く同じ場所であるのかが分かりません。ただ先に挙げたメイゼ植物園所蔵の標本には極めて大雑把な地図が付されていて、それによりますと標本の採取が行われたヤンブクは北緯2度・東経22度よりも北北東方向に位置します。これは現在のヤンブクと同じ位置である様に思われます。しかしそうなりますと今度は、ヤンブクは少なくとも現在はモンゴ語圏ではないという問題に突き当たります。手許の Ethnologue 第18版付属の地図を見ますと、モンゴ語はコンゴ民主共和国西部のコンゴ川より南側において極めて広域で話されている事が分かりますが、対照的にヤンブクが位置する筈の川の北側では全く話されていない事になっています。直接地図にヤンブクの地名が記されていない為特定は不可能ではあるのですが、ブジャ語(Budza, Buja)かLigenza語Pagibete語のいずれかと見られます。ただ、Ethnologue の言語地図は歴史的な民族移動等が考慮されていないと思われる為、Vermoesen の記録した現地語がモンゴ語ではないと切って捨てる事もできない状況です。

 なお、一語目に litoi ~ itoi の差がある事に関してはさほど問題視しておりません。同じ言語であったとしても接頭辞の違いが許容されるものである可能性、方言差である可能性、そもそも言語学者ではないと思われる Vermoesen が聞き間違えていた可能性……様々な可能性が考えられる為です。ただいずれもコンゴ川からそう遠くない場所で Vermoesen が記録した植物名と、(具体的な分類は不明ながら)言語学の素養を持つ Gustaaf Hulstaert が記録した植物名とが似通った形であり、しかもいずれも〈豚の耳〉と解釈が可能というのは、そのまま忘却の彼方に押しやるのが大変惜しいと思えた次第です。--Eryk Kij (トーク) 2022年5月1日 (日) 07:10 (UTC)返信

(追記)ヤンブク村はブジャ族の村でブジャ語が話されるとしている文献が見つかりました(Crawford, Dorothy H. (2016) Ebola: Profile of a Killer Virus. Oxford: Oxford University Press, p. 7. ISBN 978-0-19-875999-7)。ただGoogle Books上ではLigenza語の別名 Ligendza と Yambuku の組み合わせでも複数件ヒットします。Pagibete との組み合わせは1件のみヒットしましたが他2つの候補ほど有力である様には思えません。そして大事な事を忘れていたのですが、そもそもコンゴ民主共和国は部族語が様々に入り乱れた地域が存在する為に広域で通用する共通語が4種類存在しています。ヤンブク含むコンゴ民主共和国北西部では4言語のうちリンガラ語がその役割を果たしています。従って "itoi ya nsombo" はリンガラ語である可能性も存在するという事になります。--Eryk Kij (トーク) 2022年5月2日 (月) 02:34 (UTC)返信

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