日本語 編集

異表記・別形 編集

動詞 編集

する (かくする)

  1. (他動詞) 書く
    • 1905年、夏目漱石「倫敦塔」[1]
      その時譲りを受けたるヘンリーは起って十字を額と胸に画して云う「父と子と聖霊の名によって、我れヘンリーはこの大英国の王冠と御代とを、わが正しき血、恵みある神、親愛なる友の援を藉りて襲ぎ受く」と。
    • 1921年、和辻哲郎「享楽人」[2]
      さよう、それが木下の享楽の一つの特徴である。彼は白墨で線を画して、その中で美を享楽する。その享楽は実によく行き届いている。が、その線の外に出ることを彼は不思議に恐ろしがるのである。
    • 1931年、寺田寅彦「連句雑俎」[3]
      前者の拘束範囲が一つの面であるとすれば、後者はその面内にただ一つの線を画するような感じがある。
  2. (他動詞) (抽象的な)境界を物事の間に引く境目を与える。
    • 1926年、平林初之輔「文学方法論」[4]
      自然派と高踏派或はスバル派、早稲田派と三田派等の間にも可なり鮮明な境界を画することができる。
    • 1953年、牧野富太郎「植物一日一題」[5]
      すなわち常に無梗の単生花を出すツバキ属、そして時々聚繖花を出すチャ属とは自然にその間に一目瞭然たる不可侵の境界線を画するものである。
    • 1997年、富田倫生「本の未来」[6]
      万能の物まね機械という性格を持つコンピューターを使うのですから、本とは一線を画した、読むための新しい形を考えてもいいのかもしれません。
  3. (他動詞) 明瞭分ける
    • 1936年、戸坂潤「思想と風俗」[7]
      一体新しく興ったというこの新興宗教とは、いつ頃から起こったというのであるか、或いはいつ頃から社会的に相当の重大さを持つようになったもののことをいうのか。その時期を画するものは満州事変以来だということである。
    • 1953年、北大路魯山人「海の青と空の青」[8]
      海と空とは融けあって、水平線は海と空を画し、船はその一線を進むと見えて煙りを立てている。
    • 2022年、萩生田光一、第208回国会参議院[9]
      その上で、個別の施策において中小企業の範囲を画するに当たって、外部からの把握が容易であること、変動が少なく安定的に対象を決めることができる観点から、資本金額などを基準として用いることも適切と考えています。
  4. (他動詞) (「○○を画する」で)他とは異なる○○を生み出す。際立った○○を生み出す。
    • 1925年、小酒井不木「「心理試験」序」[10]
      まことに、エドガア・アラン・ポオが探偵小説の鼻祖であるとおり、わが江戸川乱歩は、日本近代探偵小説の鼻祖であって、従ってこの創作集は日本探偵小説界の一時期を画する尊いモニュメントということが出来るであろう
    • 1938年、和辻哲郎「孔子」[11]
      この書は『論語』の研究において一つの時期を画するものであり、将来の研究はここから発足するほかはないのである。
    • 1994年、富田倫生「パソコン創世記」[12]
      さらに従来は、科学技術計算用、事務処理用と用途別に複数のシリーズを置いていたものを一本化し、シリーズの全機種で同一のOSを動かし、同じプログラムを使えるようにするとした点でも、システム360は従来のものとは世代を画していた。

活用 編集

画-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形


する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 画しない 未然形 + ない
否定 画せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
画される 未然形 + れる
丁寧 画します 連用形 + ます
過去・完了・状態 画した 連用形 +
言い切り 画する 終止形のみ
名詞化 画すること 連体形 + こと
仮定条件 画すれば 仮定形 +
命令 画せよ
画しろ
命令形のみ

成句 編集

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  1. 青空文庫(2000年8月31日公開、2004年2月28日修正。底本:「夏目漱石全集2」ちくま文庫、筑摩書房、1987(昭和62)年10月27日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/1076_14974.html
  2. 青空文庫(2012年1月5日作成。底本:「和辻哲郎随筆集」岩波文庫、岩波書店、2006(平成18)年11月22日第6刷)http://www.aozora.gr.jp/cards/000283/files/4511_14292.html
  3. 青空文庫(2003年6月25日作成。底本:「寺田寅彦随筆集 第三巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店、1997(平成9)年9月5日第64刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2461_11119.html
  4. 青空文庫(2004年5月31日作成。底本:「平林初之輔文藝評論全集 上巻」文泉堂書店、1975(昭和50)年5月1日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000221/files/3198_15745.html
  5. 青空文庫(2007年12月17日作成、2012年5月10日作成。底本:「植物一日一題」博品社、1998(平成10)年4月25日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/46820_29303.html
  6. 青空文庫(2013年8月16日作成、2013年9月18日修正、CC BY 2.1 JP公開、底本:「本の未来」アスキー、1997(平成9)年3月1日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000055/files/56499_51225.html
  7. 青空文庫(2001年8月23日公開。底本:「戸坂潤全集 第四巻」勁草書房、1975(昭和50)年9月20日第7刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000281/files/1710.html
  8. 青空文庫(2020年8月28日作成。底本:「春夏秋冬 料理王国」ちくま文庫、筑摩書房、2010(平成22)年1月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/46820_29303.html
  9. 「第208回国会 参議院 予算委員会 第5号 令和4年3月1日」国会会議録検索システム https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120815261X00520220301/109
  10. 青空文庫(2007年8月21日作成。底本:「探偵クラブ 人工心臓」国書刊行会、1994(平成6)年9月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000262/files/46661_28051.html
  11. 青空文庫(2012年6月30日作成。底本:「孔子」岩波文庫、岩波書店、2007(平成19)年5月15日第22刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49890_48110.html
  12. 青空文庫(1997年9月5日公開、2013年8月16日修正、CC BY 2.1 JP公開、底本:「エキスパンドブック版 パソコン創世記」ボイジャー、1995年2月)https://www.aozora.gr.jp/cards/000055/files/365_51267.html