日本語 編集

名詞 編集

はしくれ【端くれ】

  1. ものごと一部分
    • 頭の鈍い人たちは、申し立つべき希望の端くれさえ持ち合わしてはいなかったし、才覚のある人たちは、めったなことはけっして口にしなかった。(有島武郎「親子」)〔1923年〕[1]
    • また、駅馬車の奥に頭を下にして寝そべりながら、鼻唄のいろんな端くれを不意に歌い出す馬車屋をも、彼はよく呼びかけた。(ロマン・ローラン「ジャン・クリストフ」豊島与志雄訳)[2]
  2. などの物体の切り落とされてできる小さな部分。
    • 南の島には松の木はないはずだから、これは国の近くの浜から来たものだろうなどといい、かたみに松木の膚を撫でてなつかしみ、朝ごと入江に出て、国の木々の端くれを探しだすのをたのしみにするようになった。(久生十蘭「藤九郎の島」)〔1952年〕[3]
    • 私は手紙をかく事を好んでいたのですぐ乱暴な字でノートの端くれに返事をかいた。(久坂葉子「灰色の記憶」)[4]
  3. 大した存在ではないが、同じ分類属する者。
    • 僕のところへ来る客は、自分もまあこれでも、小説家の端くれなので、小説家が多くならなければならぬ筈なのに、画家や音楽家の来訪はあっても、小説家は少かった。(太宰治「眉山」)[5]
    • 「どんなわけがあるにしても、こうなっては見殺しには出来ない、――俺も男の端くれだ、及ばずながら相談にも乗ってやろう、まず訳を話せ」(野村胡堂「銭形平次捕物控」)〔1936年〕[6]

用法 編集

語義3は、自分で自分のことを控えめへりくだって述べるときに用いることが多い。

類義語 編集

脚注 編集

  1. 青空文庫(2006年5月18日作成)http://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/1143_23267.html 2018年1月8日参照。底本:「カインの末裔」角川文庫、角川書店、1991年7月20日改版25版。
  2. 青空文庫(2008年1月27日作成)http://www.aozora.gr.jp/cards/001093/files/42599_29606.html 2018年1月8日参照。底本:「ジャン・クリストフ(四)」岩波文庫、岩波書店、1986年9月16日改版第1刷。
  3. 青空文庫(2010年8月24日作成、2011年4月22日修正)http://www.aozora.gr.jp/cards/001224/files/46102_40221.html 2018年1月8日参照。底本:「久生十蘭全集 II」三一書房、1975年6月15日第1版第3刷。
  4. 青空文庫(2005年5月27日作成、2011年10月9日修正)http://www.aozora.gr.jp/cards/001052/files/4968_18643.html 2018年1月8日参照。底本:「久坂葉子作品集 女」六興出版、1981年6月30日6刷。
  5. 青空文庫(2000年1月23日公開、2005年11月7日修正)http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/243_20190.html 2018年1月8日参照。底本:「太宰治全集9」ちくま文庫、筑摩書房、1998年6月15日第5刷。
  6. 青空文庫(2017年8月25日作成、2017年9月13日修正)http://www.aozora.gr.jp/cards/001670/files/56209_62554.html 2018年1月8日参照。底本:「銭形平次捕物控(九)不死の霊薬」嶋中文庫、嶋中書店、2005年1月20日第1刷。