風 情(ふぜい)
- おもむき。味わい。
- 花としての印象はむしろ平凡であった。――しかしその沿道で見た二本のうつぎには、やはり、風情と言ったものが感ぜられた。(梶井基次郎「路上」)
- その街に泊つた旅人は何となしに粉雪の風情に誘はれて、川の方へ歩いて行つてみた。(原民喜「壊滅の序曲」)
- 婦(をんな)は、(略)濃い桔梗色の風呂敷包を一ツ持つた。其の四ツの端を柔かに結んだ中から、大輪の杜若の花の覗くも風情で、緋牡丹も、白百合も、透きつる色を競うて映る。(泉鏡太郎「艶書」)
- 様子。容姿。表情。
- 妻君は命ぜられた通り風呂場へ行って両肌を脱いで御化粧をして、箪笥から着物を出して着換える。もういつでも出掛けられますと云う風情で待ち構えている。(夏目漱石「吾輩は猫である」)
- (接尾辞的に)のようなもの。卑しめたりへりくだったりする意味を伴う。
- まだ中学生の頃与里の家を訪れると、そのころ実業学校の生徒であつた玄也は、弟の友達風情と口をきくのも恥であるといふ気合で、ひどく気取つて腕を組み駄夫をジロリと睨んだりなぞしてゐたものだ。(坂口安吾「竹藪の家」)
- もったいなくも一人は伯爵の若殿様で、一人は吾が恩師である、さような無礼な事は平民たる我々風情のすまじき事である(夏目漱石「自転車日記」)