あがこころ【吾が心】
- 「明石」(心を明かす)、「清澄」「清隅」(心の清き)、「筑紫」(心を尽くす)にかかる枕詞。
- 御佩を 剣の池の 蓮葉に 渟れる水の 行方無み 我がする時に 逢ふべしと 相たる君を な寝そと 母きこせども 吾が情 清隅の池の 池の底 吾は忍びず ただに逢ふまでに――窪田空穂「萬葉集評釈 巻第十三(3289)」『窪田空穂全集』第18巻(万葉集評釈 第Ⅵ)、角川書店、1967年1月、72-73頁。
- 王の 御命恐み 秋津島 大和を過ぎて 大伴の 御津の浜べゆ 大舟に 真梶繁貫き 朝なぎに 水手の音しつつ 夕なぎに 楫の音しつつ 行きし君 何時来まさむと 卜置きて 斎ひ渡るに 狂言や 人のいひつる 我が心 筑紫の山の 黄葉の 散り過ぎにきと 公が正香を――窪田空穂「萬葉集評釈 巻第十三(3333)」『窪田空穂全集』第18巻(万葉集評釈 第Ⅵ)、角川書店、1967年1月、116頁。
- 朝されば 妹が手に纏く 鏡なす 三津の浜びに 大船に 真楫繁貫き から国に 渡り行かむと 直向ふ 敏馬をさして 潮待ちて 水脈導き行けば 沖辺には 白波高み 浦廻より 漕ぎて渡れば 吾妹子に 淡路の島は 夕されば 雲居隠りぬ さ夜ふけて 行方を知らに 吾が心 明石の浦に 船泊めて 浮宿をしつつ わたつみの 沖辺を見れば 漁する 海人の娘子は 小舟乗り つららに浮けり 暁の 潮満ち来れば 葦辺には 鶴鳴き渡る 朝なぎに 船出をせむと 船人も 水手も声よび 鳰鳥の なづさひ行けば 家島は 雲居に見えぬ 吾が思へる 心和ぐやと 早く来て 見むと思ひて 大船を 漕ぎ我が行けば 沖つ波 高く立ち来ぬ 外のみに 見つつ過ぎ行き 多麻の浦に 船をとどめて 浜びより 浦磯を見つつ 哭く児なす 哭のみし泣かゆ 海神の 手纏の珠を 家づとに 妹に遣らむと 拾ひ取り 袖には入れて 返し遣る 使無なければ 持てれども 験を無みと また置きつるかも――窪田空穂「萬葉集評釈 巻第十五(3627)」『窪田空穂全集』第18巻(万葉集評釈 第Ⅵ)、角川書店、1967年1月、321-322頁。