朦 朧(もうろう)
- 姿がぼんやりとして、輪郭がはっきりしない様。
- 退屈してぼんやり見おろした薄明の街で、丁度暮方の灯が朦朧と光りはぢめたのだ。黄昏が語る安らかな言葉のやうに、それは華麗な静かな靄で呂木の心をおしつつみ、遥かな放心に泌みてきた。(坂口安吾『Pierre Philosophale』)
- ところで、その時に見せてもらった雲岡の写真は、朦朧とした出来の悪いもので、あそこの石仏の価値を推測する手づるにはまるでならなかったのである。(和辻哲郎『麦積山塑像の示唆するもの』)
- (意識などが) はっきりしていない、明瞭でない様。
- 幽気であって幽鬼でない以上、それは勿論、形あるが如くなきが如く、音も立てず口も利かず、ただそれと感じられるばかりで、朦朧と浮游しているのであるが、一度それに触れると、人は慄然として、怪しい蠱毒が全身に泌み渡るのを覚ゆる。(豊島与志雄『都会の幽気』)
- いかに現在の計測を精鋭にゆきわたらせることができたとしても、過去と未来には末広がりに朦朧たる不明の笹縁がつきまとってくる。(寺田寅彦 『野球時代』)
- (死語 明治末から昭和初期にかけての隠語)「朦朧車夫」の略。
- そこで私はグデングデンに酔っ払ったふりをしながら朦朧タクシーを拾い直して来て、駿河台の坂を徒歩で上って、午前四時キッカリにお茶の水のグリン・アパートに帰り着いた。(夢野久作 『けむりを吐かぬ煙突』)