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名詞

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ひとくち一口

  1. 一度に沢山のものを入れること。
    • 「ほら。」と言って、やせ犬になげてやりました。すると犬は、それが地びたへおちないうちに、ぴょいと上手に口へうけて、ぱくりと一口にのみこんでしまいました。(鈴木三重吉『やどなし犬』)
  2. 一回で口に入るだけの少しの飲食など。また、それだけの分量。
    • 見かけはあめのようだけれど、ほんとうは、一口でもなめたら、ころりとまいってしまうひどい毒薬だ。(楠山正雄『和尚さんと小僧」)
    • 大森は「ちょっと」と言って、一口吸った煙草を灰に突っこみ、机に向かって急いで電文を書き終わり(国木田独歩『疲労』)
  3. 軽い飲食。
    • ところで其許は、道中松並木で出来た道づれの格だ。その道づれと、なん一口遣やろうではないか、ええ、捻平ねじべいさん。(泉鏡花『歌行燈』)
    • 高村は関羽鬚を揺すって、高笑した。「どうです。一口ウォツカでも…………」 彼は乗馬ズボンの腰を叩いて、隊長の気を引いた。(里村欣三『シベリヤに近く』)
  4. 短く言うこと。短い又はわずかな言葉。一言(cf.一口/比較的少数言う≒一言/言う)。
    • 源氏物語は、一口に言えば、光源氏を主人公として書かれた物語である。(折口信夫 『反省の文学源氏物語』)
    • 初対面の時の、この一口云えない瀧田氏の印象は、今も猶そのままに遺っている。(宮本百合子『狭い一側面』)
    • 「よけいなことは、一口もいうな」 ハンスは怒っている。(海野十三『人造人間の秘密』)
    • 一口も知らぬけれども、一念に變りはない。(泉鏡花『松の葉』)
  5. 意見が一致すること、異口同音
    • このはなしをすると、よく友人たち一口ひとくちに「君、それは鼠だろう」とけなしてしまう(北村四海『頭上の響』)
  6. 一つの単位、まとまり。
    • その程度の藏書を、われわれが今どこかほかで一口や二口見つけて來ても、ただそれだけで、大學の「人文科」とか「文學科」とかいふものの參考書としては、もちろん不足である。(會津八一『綜合大學の圖書』)
  7. (「一口乗る」「一口噛む」などの形で)軽く関わること。
    • そうは云うものの、おめえ何か旨い為事しごとがあるのなら、おれだって一口乗らねえにも限らねえ。(フレデリック・ブウテ 森鴎外訳 『橋の下』)
    • ダンナは大望に生きる人だ。ねえ、その望みを打ちあけて下さいな。私にも一口張らせて下さいな。私は全財産を投げだしてダンナにはろうじゃないか。(坂口安吾『吝嗇神の宿 人生オペラ 第二回』)