苦 肉(くにく)
- 敵を欺くために、故意に自らを傷つけるなど犠牲を払うこと。
- ※近年、「敵を欺くために」の要素が薄れ、単に、打つ手がなく自らの犠牲を覚悟した方策の意に用いる例も増えている。
- 大杉が果してスパイであった乎否乎の謎は大杉自身が鍵を握ってるので、余人の推測は余りアテにならないが、大杉がもし果して真にスパイであったなら問題の何とかいう男のように月給何百円も貰って自働車で出入しないまでも最う少し貧乏しないでも済んだろう。貧乏してまでも同志を欺く苦肉の謀をしてお上の御用を勤めていたというなら、それこそ楠正成ほどでなくとも赤穂の義士ぐらいに値踏み出来る国家の功労者である。(内田魯庵 『最後の大杉』)
- も一つの結び目は、もっと現実的な解け方をしているのですが、犯人はこれをごまかすに、自らも甚しく現実的な苦肉策を弄しているのであります。即ち、ヒサと中橋を同一人が同日に殺す場合に、中橋をあの場所であの時間に殺しうる者はただ一人しか居ないのですが、犯人はそうでなく思わせるために、自分にかかるメンミツな計画犯罪を行う智力がないもののような愚か者のフリをしてみせたのであります。(坂口安吾 『明治開化 安吾捕物 その四 ああ無情』)