てまえ【手 前、点 前】
- 自分に近い側。類義語:こちら。
- 目的の場所よりも少し前。類義語:寸前。
- 一人称の一つ。茶の湯他、一般にも用いる、ややへりくだった表現。類義語:自分、わたくし。
- 手前(語義3)も門跡様がお着きになると云う日は、朝から渡世を休んで、鈴ヶ森の手前(語義2)まで往って待ち受けておりました。(田中貢太郎『尼になった老婆』)
- 二人称の一つ。目下の人に対して使う高圧的な表現。類義語:てめえ(転訛)、おまえ、貴様。
- 「馬鹿野郎!手前たちは木偶の棒だ。卑怯者だ。」(有島武郎『卑怯者』)
- 腕前、技量。特に茶の湯におけるもの。茶をたてる意味のときは「点前」と書くことが多い。類義語:手並み、建て前。
- 風炉と釜と床の間、これに対して歎息を発し、次は炭手前の拝見である。主人が炉に炭をつぐのを、いざり寄って拝見して、またも深い溜息をもらす。(太宰治『不審庵』)
- 対外的、社会的な体裁を取り繕わなければならない状況。
- フェリーのクルーに紙テープを手渡されながら、首藤は辺りを見渡した。(略)船出を心待ちにしている子供の群れに、初老に差しかかった大人が一人っきりで混じるのは多少気が引けた。けれど、テープを受け取ってしまった手前、今さら船内に引っ込むのも気まずかった。(澤西祐典『湯けむり』)
- 小学校の六年生になってからのこと、ぼくは机の前に座っていても、それは父や兄などの手前で、勉強しているふりをしているにすぎなかった。(山之口貘『初恋のやり直し』)