奏する
日本語
編集動詞
編集奏する (そうする)
- (他動詞, 文章語) 奏上する。
- 1938年、與謝野晶子訳、紫式部「源氏物語」[1]
- 「隠そう隠そうとしてあまり御前へ出さずに陛下をお悩ましするなどということはけしからんことだ」と源氏は言って、帝へは「私の所にも古い絵はたくさんございますから差し上げることにいたしましょう」と奏して、源氏は二条の院の古画新画のはいった棚をあけて夫人といっしょに絵を見分けた。
- 1940年、和辻哲郎「日本精神史研究 改訂版」[2]
- ――昔、智覚禅師という人は、初めは官吏であったが、国司となっていた時に、公金を盗んで衆に施した。それを傍人が皇帝に奏したので、帝は驚き諸臣も皆怪しんだが、罪過すでに軽からざるゆえに、死罪に定まった。
- 1947年、坂口安吾「道鏡」[3]
- そして、このとき、豊成の子の乙縄も陰謀に加担していた。そこで父の右大臣は陰謀を知って奏することを怠ったという罪に問われて、太宰員外師に左遷され、遠く九州へ追い落されてしまったのである。
- 1938年、與謝野晶子訳、紫式部「源氏物語」[1]
- (他動詞, 文章語) 〔良い結果や働きを〕生む。得る。
- 1908年、夏目漱石「創作家の態度」[4]
- 現代の仏蘭西人が革命当時の事を考えたら無茶だと思うかも知れず。また浪漫派の勝利を奏したエルナニ事件を想像しても、ああ熱中しないでもよかろうくらいには感ずるだろうと思います。
- 1920年、谷崎潤一郎「途上」[5]
- こうして彼は気長に結果を待っている筈でしたが、この計略は思いのほか早く、越してからやっと一と月も立たないうちに、かつ今度こそ十分に効を奏したのです。
- 1945年、太宰治「惜別」[6]
- この丸薬は、大先生の自慢の処方で、特に父のような水腫のある病人に卓効を奏するということであった。この神薬を売っている店は、この地方にたった一軒あるきりで、そうして、その店は自分の家と五里もはなれていた。
- 1908年、夏目漱石「創作家の態度」[4]
- (他動詞, 文章語) 奏でる。演奏する。歌う。
- 1933年、寺田寅彦「伊香保」[7]
- やつと宿の物音があらかた靜まつた後は、門前のカフエーから蓄音機の奏する流行小唄の甘酸つぱい旋律が流れ出して居た。
- 1937年、久生十蘭「魔都」[8]
- 省線電車は高架線の屋根の上を轟然と驀馳し、砥道の谷底をトラックとタクシーが紛然と矢の如く行き交う。……あらゆる物音は雑然混然と入り混り溶け合い、大空をどよもして大都会の小夜楽を奏するのである。
- 1937年、宮本百合子「打あけ話」[9]
- 私は万策つきた形で、小高い台の上に並んでかけた。その時話していた人のその日の記念日のわけを説明する講演が終ったら、演台の下にひかえている音楽隊が高らかに、あっちの国歌になっている歌の一節を奏した。
- 1933年、寺田寅彦「伊香保」[7]
活用
編集サ行変格活用 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
奏 | し せ さ |
し | する | する | すれ | せよ しろ |
意味 | 語形 | 結合 |
---|---|---|
否定 | 奏しない | 未然形 + ない |
否定 | 奏せず | 未然形 + ず |
自発・受身 可能・尊敬 |
奏される | 未然形 + れる |
丁寧 | 奏します | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | 奏した | 連用形 + た |
言い切り | 奏する | 終止形のみ |
名詞化 | 奏すること | 連体形 + こと |
仮定条件 | 奏すれば | 仮定形 + ば |
命令 | 奏せよ 奏しろ |
命令形のみ |
成句
編集註
編集- ↑ 青空文庫、2003年5月9日作成(底本:「全訳源氏物語 上巻」角川文庫、角川書店、1994(平成6)年12月20日56版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000052/files/5032_10223.html
- ↑ 青空文庫、2017年12月10日作成(底本:「日本精神史研究」岩波文庫、岩波書店、2007(平成19)年1月25日第16刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49905_63366.html
- ↑ 青空文庫、2020年9月28日作成(底本:「桜の森の満開の下」講談社文芸文庫、講談社、2015(平成27)年4月15日第47刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/57482_71929.html
- ↑ 青空文庫、2000年8月24日公開、2004年2月27日修正(底本:「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房、1988(昭和63)年7月26日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/1102_14956.html
- ↑ 青空文庫、2016年9月9日作成(底本:「文豪の探偵小説」集英社文庫、集英社、2006(平成18)年11月25日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001383/files/56849_60145.html
- ↑ 青空文庫、2000年6月20日公開、2005年11月1日修正(底本:「太宰治全集7」ちくま文庫、筑摩書房、1989(平成元)年3月28日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2277_15069.html
- ↑ 青空文庫、2003年11月11日作成(底本:「現代日本紀行文学全集 東日本編」ほるぷ出版、1976(昭和51)年8月1日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/4653_13834.html
- ↑ 青空文庫、2000年8月24日公開、2004年2月27日修正(底本:「久生十蘭全集Ⅰ」三一書房、1989(平成元)年2月28日第1版第7刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001224/files/46076_49499.html
- ↑ 青空文庫、2003年9月15日作成(底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3927_13066.html