ひっかける【引っ掛ける・引っ懸ける】
- (他動詞) (突起や環状のものに)かませる・ぶらさげる。
- 益満は、提灯を吹き消した。そして、木の枝へ引っかけた。(直木三十五「南国太平記」)〔1931年〕[1]
- (他動詞) 関連づける。
- 僧はさらにこの「無」に引っかけて、一切衆生が無であるならば仏性も狗子も無であるだろう、その意義いかんと問う。(和辻哲郎「日本精神史研究」)〔1922年〕[2]
- (他動詞) くわだてて、だます。
- 三千石の殿様が、こうして落魄れておいでなさることも夢のようだし、その殿様と自分が、こうして膝つき合わせて友達気取りでお話をしているのも疑えば際限がないし、美しい男に化けるのが上手だという三吉狐が、もしや駒井の殿様に化けて、わたしを引っかけているのではなかろうか。(中里介山「大菩薩峠」)〔1921年〕[3]
- 誘惑する。ナンパする。
- (他動詞) (液体を)ふりかける。
- それ以来、この中堅会が、羽振りを利かすようになって、四年になった時「五年は、来年卒業するから、もう、学校には縁が薄い。四年が、学校の中心だ」という理屈をつけたが、夕陽丘で、女学校の柵へ小便引っかけたのは、この時分である。(直木三十五「死までを語る」)〔1933年〕[4]
- (他動詞) (酒などを)飲む。
- 午頃になって、一寸町へ出た。何か少し食って、黒ビイルを一杯引っ掛けて帰って、また書いている。(Jacob Julius David「世界漫遊」)〔森鴎外訳1911年〕[5]
- (他動詞) (上着や履物を)無造作に着用する。
- 「あら、いらっしゃい……」と、この古ぼけた居酒屋に似合わぬ、陽気な、若い女の声がすると、赤い塗下駄を引っかけた、結綿の女がぱっと花が咲いたように出て来た。(蘭郁二郎「夢鬼」)〔1936年〕[6]
- どんな話だったか私は知らないが、私が玄関まで送ってゆくと、A叔母さんはコートを引っかけながら、くるりと私の方へ向き直って、私の顔をじっと見た。(豊島与志雄「窓にさす影」)〔1952年〕[7]
活用と結合例
各活用形の基礎的な結合例
意味 | 語形 | 結合 |
否定 | ひっかけない | 未然形 + ない |
意志・勧誘 | ひっかけよう | 未然形 + よう |
丁寧 | ひっかけます | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | ひっかけた | 連用形 + た |
言い切り | ひっかける | 終止形のみ |
名詞化 | ひっかけること | 連体形 + こと |
仮定条件 | ひっかければ | 仮定形 + ば |
命令 | ひっかけろ ひっかけよ | 命令形のみ |