擬する

日本語

動詞

擬する (ぎする)

1. (他動詞, 文章語) なぞらえる。見立てる。
   • 1936年、木暮理太郎「山の今昔」

     ［…］仏教から拾ったらしい種に、荒唐無稽ではあるが当時の人をして恐怖せしむるに充分である様々な伝説を附会させ、火口を地獄に比し、磐座を剣の山に擬するなど、神と崇めた祖先からの美しい感情を奪い去って、恐怖観念を漂わせ、世に蒔き散らしたものが芽立って枝葉を拡げたからである。

   • 1946年、織田作之助「夜の構図」

     しかし、彼はジュリアンではなかったし、またジュリアンにはなれなかった。ジュリアンのような高貴な精神も情熱もなかった。ジュリアンのような第一級の人物ではない。だから、ジュリアンを自分に擬するのは滑稽だったしジュリアンの真似をするのはあわれな猿真似にすぎなかった。

2. (他動詞, 文章語) 候補に挙げる。
   • 1929年、江戸川乱歩「何者」

     で、その琴野光雄が真犯人でないとすると、弘一君は一体全体何者を犯人に擬しているのであろう。外にもう一人黄金狂があるとでも云うのかしら。

   • 1938年、與謝野晶子訳、紫式部「源氏物語」

     「入道の中宮様は最上の貴婦人らしい品のある字をお書きになったが、弱い所があって、はなやかな気分はない。院の尚侍は現代の最もすぐれた書き手だが、奔放すぎて癖が出てくる。しかし、ともかくも院の尚侍と前斎院と、あなたをこの草紙の書き手に擬していますよ」

3. (他動詞, 文章語) 模倣する。真似る。
   • 1932年、寺田寅彦「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」

     医者が姫君を診察するとき、心臓の鼓動をかたどるチンパニの音、脈搏を擬する弦楽器のピッチカットもそんなにわざとらしくない。

   • 1933年、国枝史郎「血煙天明陣」

     招ばれて来た町方の妓女を擬し、白拍子の静の仮装をした、織江がそこに坐ってい、桐島伴作が付いていた。

4. (他動詞, 文章語) 〔刀や銃〕を突きつける。
   • 1927年、吉川英治「江戸三国志」

     お粂を下にねじ伏せた馬春堂が、相手の胸元へ短刀を擬している。その光が率八の眼の玉へいきなり飛びこんだから堪りません。

   • 1937年、平井肇訳、ニコライ・ゴーゴリ「ディカーニカ近郷夜話」

     奴は今しも山の頂きに立つて、小銃を擬して彼を狙つてゐる。ダニーロはそれに向つて真一文字に馬を駆つた……。

活用

擬-する 動詞活用表（日本語の活用）

サ行変格活用
語幹	未然形	連用形	終止形	連体形	仮定形	命令形
擬	し せ さ	し	する	する	すれ	せよ しろ

各活用形の基礎的な結合例

意味	語形	結合
否定	擬しない	未然形 + ない
否定	擬せず	未然形 + ず
自発・受身 可能・尊敬	擬される	未然形 + れる
丁寧	擬します	連用形 + ます
過去・完了・状態	擬した	連用形 + た
言い切り	擬する	終止形のみ
名詞化	擬すること	連体形 + こと
仮定条件	擬すれば	仮定形 + ば
命令	擬せよ 擬しろ	命令形のみ