まったく【完く、全く】
- すっかり。完全に。
- 全く新しい世界が開ける。
- 全く同じだ。
- まったくの素人。
- (打消しの表現と呼応し、打消しの度合いを強調)少しも、全然、まるで。
- そんな事実はまったくない。
- 「釣れましたか」「いえ、まったく(釣れなかった)」。
- (評価について消極的表現と呼応し、消極の度合いを強調)全然。
- (評価の方向性と無関係にその度合いを強調)たいへん、全然。実に。本当に。間違いなく。
- めの前もくらむやうに急ぎました。あんまり急ぎすぎたのでそれはながくつゞきませんでした。雪がまったくひどくなって来た方も行く方もまるで見えず二人のからだもまっ白になりました。そして楢夫が泣いていきなり一郎にしがみつきました。(宮沢賢治 『ひかりの素足』)
- 彼の横顔を恍惚(ほれぼれ)と遙(はるか)に見入りたりしが、遂(つひ)に思堪(おもひた)へざらんやうに呻(うめ)き出(いだ)せり。「好(い)い、好い、全く好い! 馬士(まご)にも衣裳(いしよう)と謂(い)ふけれど、美(うつくし)いのは衣裳には及ばんね。物それ自(みづか)らが美いのだもの、着物などはどうでも可(い)い、実は何も着てをらんでも可い」(尾崎紅葉『金色夜叉』1897年)
- それはまったく素晴らしいことです。
- まったく、よくやってくれたよ。(認めたくは無いが、現実として起こっているニュアンス)
- 強調の用法としては、「全然」「まるで」「てんで」同様、打消しの表現に伴うものが正しいものとされる、それに引き続き消極表現に関する用法がしばしば見られるようになり、それが、単なる強調の表現となる。後者によるほど、誤用との印象をもたれがちとなる。ただし、「まったく」の場合、「実に」の意味で用いられる場合は、元来、打消し表現と無関係である。
まったく【完く、全く】
- (迷惑や不快感などを表出する。その対処にまず自らがあたることを言外に含むことがある)
- フィロ・ヴァンスなる迷探偵が何かにつけて低脳そのものゝ智者ぶりを発揮する。まったく、こゝまで超人的明察となると、これは低脳と云わざるを得ない。(坂口安吾『探偵小説を截る』)
- うるせえよっまったく!(三好十郎『樹氷』)
- (「まったく」のほか「まったくだ」などの形で、強い同意を表す)
- 「そういう軍服では熱帯では重たすぎますね」と、旅行者は将校が予想していたように装置のことをたずねるかわりに、そういった。/「まったくです」と、将校はいって、油脂で汚れた両手を用意されてあるバケツで洗った。(フランツ・カフカ 原田義人訳『流刑地で』)
- (語義1)「まったく、何をするんだ」「まったく、困ったものだ」「まったく、あきれた」などの表現の略であろう。
- (語義2)「まったくそのとおり」「まったくそうだ」などの略か。