日本語 編集

動詞 編集

する (よくする)

  1. (自動詞, 文章語) 浸かる入浴する。
    • 1911年、田山花袋「子供と旅」[1]
      昨夜遅く此処に着いた。温泉の湯壺は階梯を下りて行つたところにあつた。昨夜も今朝も浴して居る客は一人もなかつた。
    • 1946年、和辻哲郎「古寺巡礼」[2]
      湯を享楽するのは東洋の風だと言われている。東洋でも熱い国では水に浴するがこれは同じ意味のものと認めてさしつかえない。
    • 1951年、坂口安吾「人生三つの愉しみ」[3]
      又、農村ではモライブロという風俗があり、いわば一ツの隣組で、代り番に自宅で風呂をたいて共同で浴する。必ずしも経済のためではなく、石ブロや湯治場同様、フロをもって休養時の集会所、社交場とみる遺風の片鱗ではあるまいか。
  2. (自動詞, 文章語) (「~に浴する」の形で)~を浴びる
    • 1915年、岡本綺堂「二階から」[4]
      彼は悠然として滝の下にうずくまる。そうして、楓の葉を通して絶間なしに降り注ぐ人工の雨に浴している。バケツの水が尽きると、甥と下女とが汲み替えて遣る。
    • 1916年、素木しづ「咲いてゆく花」[5]
      一週間ののち、少女はまた飛び立つような身軽るさとうれしさとに輝く盛夏の日光を、限りなく身一っぱいに浴することが出来た。彼女の肉体も感情もすべてが新らしく力強くなったように思われた。
    • 1937年、岡本綺堂「柳のかげ」[6]
      海に山に、涼風に浴した思い出もいろいろあるが、最も忘れ得ないのは少年時代の思い出である。
  3. (自動詞, 文章語) (「~に浴する」の形で)~を自分便益として受け取る。~を享受する。
    • 1930年、江戸川乱歩「吸血鬼」[7]
      「やり直しだ。やり直しだ。僕は君の如き青二才の恩恵に浴したくない」岡田が駄々ッ子の様に怒鳴った
    • 1938年、織田作之助「雨」[8]
      軽部の倫理は「出世」であった。若い身空で下寺町の豊沢広昇という文楽の下っ端三味線ひきに入門して、浄瑠璃を習っていた。浄瑠璃好きの校長の相弟子という光栄に浴していた訳である。
    • 1943年、折口信夫「橘曙覧」[9]
      覧は文化九年、福井市内屈指の紙商、井手正玄の長男として生れたが、父祖の余沢に浴することをせず、豊かな家産と名跡、家業を悉く異母弟に譲つて、郷里を離れた山里や町はづれに、さゝやかな藁家を構へ、学究歌道に専念した。

活用 編集

浴-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形


する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 浴しない 未然形 + ない
否定 浴せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
浴される 未然形 + れる
丁寧 浴します 連用形 + ます
過去・完了・状態 浴した 連用形 +
言い切り 浴する 終止形のみ
名詞化 浴すること 連体形 + こと
仮定条件 浴すれば 仮定形 +
命令 浴せよ
浴しろ
命令形のみ

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  1. 青空文庫(2008年3月25日作成。底本:「日本の名随筆78 育」作品社、1991(平成3)年9月1日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000214/files/48125_30645.html
  2. 青空文庫(2010年12月4日作成。底本:「古寺巡礼」岩波文庫、岩波書店、2006(平成18)年10月5日第52刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49891_41902.html
  3. 青空文庫(2009年3月17日作成。底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房、1998(平成10)年12月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/45899_34354.html
  4. 青空文庫(2008年11月29日作成、2011年10月9日修正。底本:「北海道文学全集 第四巻」立風書房、2008(平成20)年5月23日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/49538_33632.html
  5. 青空文庫(2000年9月16日公開、2005年12月29日修正。底本:「北海道文学全集 第四巻」立風書房、1980(昭和55)年4月10日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000012/files/1092_20971.html
  6. 青空文庫(2001年10月15日公開、2011年10月8日修正。底本:「綺堂むかし語り」光文社時代小説文庫、光文社、1995(平成7)年8月20日初版1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/1306_14484.html
  7. 青空文庫(2017年10月10日作成、2018年12月2日修正。底本:「江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師」光文社文庫、光文社、2013(平成25)年2月20日2刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56658_62864.html
  8. 青空文庫(2012年3月26日作成。底本:「俗臭 織田作之助[初出]作品集」インパクト出版会、2011(平成23)年5月20日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000040/files/53804_47394.html
  9. 青空文庫(2013年1月20日作成。底本:「折口信夫全集 14」中央公論社、1996(平成8)年5月25日初版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/47549_50039.html