日本語

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動詞

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する (げきする)

  1. (自動詞, 文章語) 興奮する。いきり立つ
    • 1912年、小川未明「ある日の午後」[1]
      ある静かな日の午後である。此家から老女の声と若い女の声とが聞えた。老女の声は低かった。若い女の声は激していた。
    • 1934年、江戸川乱歩「人間豹」[2]
      それは窓の少ない薄暗い部屋であったから、彼の両眼の蛍火のような怪光をハッキリ見てとることができた。青く黄色く燃える眼底の妖火は、彼が激すれ激するほど、その光輝を増して行くように思われた。
  2. (自動詞, 文章語) 激しくなる。
    • 1886年、徳富蘇峰「将来の日本」[3]
      しかれども、その近傍の諸種族と生存の競争いよいよ繁くいよいよ激するに従い、市民はことごとく戦争をもってその専業となし[…]
    • 1932年、坂口安吾「母」[4]
      辰夫の母は、これが又私の苦手であった。重なる不幸でヒステリイが激していた所為もあるし、本来辰夫に遺伝するだけのものを此の人も充分具えていたから、話が世の尋常とは余程異っていた。
  3. (自動詞, 文章語) 水流が)激しくぶつかる
    • 1912年、岡本綺堂「飛騨の怪談」[5]
      やがて底近く来たと思う頃に、滔々たる水の音が凄まじく聞えた。松明を振照して視たが水らしいものは見えぬ、恐く地の底を流れるのであろう、岩に激するような音が宛がら雷のように響いた。
    • 1930年、梶井基次郎「闇の絵巻」[6]
      下流の方を眺めると、溪が瀬をなして轟々と激していた。瀬の色は闇のなかでも白い。それはまた尻っ尾のように細くなって下流の闇のなかへ消えてゆくのである。
  4. (他動詞) 刺激する。奮い立たせる
    • 1886年、徳富蘇峰「将来の日本」[7]
      ゆえにかの維新改革の先達は玉石ともに焼かんことを恐れ、左盻右顧したるにもかかわらず、かの大勢はわが先達をば必迫の圧力をもってこれを駆り、その一改革はさらに他の改革を激し、その一の顛覆はさらに他の顛覆を誘い[…]
    • 1954年、小坂善太郎、第19回国会参議院[8]
      問題として不当なことはできるだけ私ども役所の立場から公正に裁きたいと思いますから、どうか余り感情を激するようなことは双方において抑えるように私も努めるつもりでありますが

活用

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激-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形


する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 激しない 未然形 + ない
否定 激せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
激される 未然形 + れる
丁寧 激します 連用形 + ます
過去・完了・状態 激した 連用形 +
言い切り 激する 終止形のみ
名詞化 激すること 連体形 + こと
仮定条件 激すれば 仮定形 +
命令 激せよ
激しろ
命令形のみ
  1. 青空文庫、2011年11月30日作成(底本:「芸術は生動す」国文社、1982(昭和57)年3月30日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001475/files/51757_46424.html
  2. 青空文庫、2019年9月27日作成(底本:「屋根裏の散歩者」角川ホラー文庫、角川書店、2003(平成15)年8月25日改訂17版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/58170_69341.html
  3. 青空文庫、2014年8月27日作成(底本:「日本の名著 40」中央公論社、1982(昭和57)年2月25日3版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001369/files/49622_54223.html
  4. 青空文庫、2016年3月4日作成(底本:「風と光と二十の私と・いずこへ」岩波書店、岩波文庫、2013(平成25)年1月25日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/56804_58823.html
  5. 青空文庫、2013年8月11日作成、2013年9月18日修正(底本:「飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選」メディアファクトリー、2008(平成20)年3月5日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/49682_51215.html
  6. 青空文庫、1999年1月11日公開、2016年7月5日修正(底本:「檸檬・ある心の風景 他二十編」旺文社文庫、旺文社、1974(昭和49)年第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/415_19818.html
  7. 青空文庫、2014年8月27日作成(底本:「日本の名著 40」中央公論社、1982(昭和57)年2月25日3版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001369/files/49622_54223.html
  8. 「第19回国会 参議院 労働委員会 閉会後第1号 昭和29年7月6日」国会会議録検索システム https://kokkai.ndl.go.jp/txt/101915289X00119540706/116 2022年7月9日参照。