託する
日本語
編集異表記・別形
編集動詞
編集託する (たくする)
- (他動詞) 〔本来は自分がするべきことや大事なことの代行を〕人や何かに委ねる。
- 1934-1936年、吉川英治「親鸞」[1]
- 「おぬしは、娘御のこれほど慕っている国助が、気に喰わぬのか」とたずねた。「いや、気に喰わんというわけじゃないが、世間でとかくよういわぬから、娘の行く末を託するに足らぬ男と思うていたまでじゃ」
- 1936年、島崎藤村「夜明け前」[2]
- お粂はその夫植松弓夫と共に木曾福島を出て東京京橋区鎗屋町というところに家を持っているからその方に二人の幼いものを託する、あのお粂ならきっと弟たちのめんどうを見てくれる、この半蔵の考えが宗太をよろこばせた。
- 1937年、永井荷風「西瓜」[3]
- 洋行も口にはいいやすいが、いざこれを実行する段になると、多年住みふるした家屋の仕末をはじめ、日々手に触れた家具や、嗜読の書をも売払わなければならない。それらの事は友人にでも託すればよいという人もあろうが、一生還って来ないつもりで出掛けるのに迷惑と面倒とを人にかけるのは心やましいわけである。
- 1934-1936年、吉川英治「親鸞」[1]
- (他動詞) 〔気持ちや意見を〕何かの表現に込める。代弁させる。
- 1948年、中谷宇吉郎「『団栗』のことなど」[4]
- 十九歳の若い奥さんは、夫に離れ、家人に離れ、みどり児からも引き離されて、ただ一人乳の張りに悩んでいた。その悩みも手紙に託するより外に道がなかった。
- 1949年、三好十郎「『日本製』ニヒリズム」[5]
- ただ最後に、これらの諸氏に立ち直ってほしいと思う私の心からの願望を託する言葉として、妙なことを一語だけ添える。それは、以上私の語ったこととは、縁もゆかりも無い言葉のように見えるであろうが、実は、諸氏が立ち直るための諸条件を一点に要約した言葉であると私は思う。
- 1954年、橘外男「グリュックスブルグ王室異聞」[6]
- また濫りに予の動くことは、巷間徒らに噂と新聞紙上を賑せて、そなたのためにあらぬ揣摩臆測を増させるのみであろう。よってすべてを、この書信に託する。この書信を、予と語るものと思われよ。
- 1948年、中谷宇吉郎「『団栗』のことなど」[4]
- (他動詞) 〔大事な物を〕届けてもらうために誰かに預ける。
- 1914年、與謝野寛、與謝野晶子「巴里より」[7]
- 巴里の市内小包は何うかと云ふと東京の様に迅速な配達制度は無く唯一日に三回配達する普通小包丈である。其外に至急を要する物は各自の家の使用人に持たせて遣るか、使ひ歩きを業とする者に託する。
- 1917年、田山録弥「ペチヨリンとゲザ」[8]
- ある田舎の駅舎で落合つて、一夜語り明して、『己はこれから波斯に行く……。もうロシアには帰つて来ない。死ぬか生きるかわからない』かう言つて、主人公はその持つてゐる『浴泉記』の原稿を友人に託する条は、殊に感慨無量で、何うしても、ロシアの文芸の産物であるといふ感を深くさせる。
- 1941年、リットン・ストレチー、片岡鉄兵訳「エリザベスとエセックス」[9]
- その春、サザンプトンがアイルランドにやってきた。それがエセックスからマウントジョイあての信書を託する好機となったのである。
- 1914年、與謝野寛、與謝野晶子「巴里より」[7]
活用
編集サ行変格活用 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
託 | し せ さ |
し | する | する | すれ | せよ しろ |
意味 | 語形 | 結合 |
---|---|---|
否定 | 託しない | 未然形 + ない |
否定 | 託せず | 未然形 + ず |
自発・受身 可能・尊敬 |
託される | 未然形 + れる |
丁寧 | 託します | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | 託した | 連用形 + た |
言い切り | 託する | 終止形のみ |
名詞化 | 託すること | 連体形 + こと |
仮定条件 | 託すれば | 仮定形 + ば |
命令 | 託せよ 託しろ |
命令形のみ |
関連語
編集- 託す(五段活用形)
註
編集- ↑ 青空文庫、2021年7月27日作成(底本:「親鸞(一)」吉川英治歴史時代文庫、講談社、2010(平成22)年2月23日第34刷発行。「親鸞(二)」吉川英治歴史時代文庫、講談社、2011(平成23)年9月1日第34刷発行。「親鸞(三)」吉川英治歴史時代文庫、講談社、2009(平成21)年8月5日第31刷発行。)https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/33224_73869.html
- ↑ 青空文庫、2001年7月4日公開、2009年11月20日修正(底本:「夜明け前 第二部(下)」岩波文庫、岩波書店、1995(平成7)年12月15日第26刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000158/files/1507_14593.html
- ↑ 青空文庫、2001年7月4日公開、2010年5月28日作成、2010年11月2日修正(底本:「荷風随筆集(下)」岩波文庫、岩波書店、2007(平成19)年7月13日第23刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/49647_39420.html
- ↑ 青空文庫、2017年10月25日作成(底本:「中谷宇吉郎集 第五巻」岩波書店、2001(平成13)年2月5日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57303_63097.html
- ↑ 青空文庫、2008年12月12日作成(底本:「叢書名著の復興1 恐怖の季節」ぺりかん社、1966(昭和41)年12月1日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001311/files/48363_34007.html
- ↑ 青空文庫、2017年9月24日作成(底本:「橘外男ワンダーランド 幻想・伝奇小説篇」中央書院、1995(平成7)年4月3日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001397/files/51249_62850.html
- ↑ 青空文庫、2011年5月15日作成(底本:「巴里より」金尾文淵堂、1914(大正3)年5月3日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000320/files/2168_42800.html
- ↑ 青空文庫、2021年9月27日作成(底本:「定本 花袋全集 第二十四巻」臨川書店、1995(平成7)年4月10日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000214/files/48992_74200.html
- ↑ 青空文庫、2011年1月22日作成(底本:「世界教養全集 27」平凡社、1962(昭和37)年9月29日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001407/files/50112_42137.html