辞する

日本語

動詞

辞する (じする)

1. (自動詞, 文章語) 立ち去る。
   • 1914年、夏目漱石「ケーベル先生の告別」

     私が十五日の晩に、先生の家を辞して帰ろうとした時、自分は今日本を去るに臨んで、ただ簡単に自分の朋友、ことに自分の指導を受けた学生に、「さようならごきげんよう」という一句を残して行きたいから、それを朝日新聞に書いてくれないかと頼まれた。

   • 1925年、芥川龍之介「ピアノ」

     わたしはわたしの訪ねた人と或こみ入つた用件を話した。話は容易に片づかなかつた。わたしはとうとう夜に入つた後、やつとその人の家を辞することにした。

2. (他動詞, 文章語) 辞（や）める。
   • 1950年、中谷宇吉郎「私の読書遍歴」

     たまたま四宮兼元先生が、哲学雑誌の編集者の地位を辞して、四高の先生になって来られ、その講義が非常に人気があった。そのせいもあって、急に学生間に哲学書が流行り出した。

   • 1950年、久坂葉子「灰色の記憶」

     医師の診断をうけた私は、急性の軽い胸部疾患であることを知った。私は会社を辞することを命ぜられた。三カ月は療養せねばならなかった。

3. (他動詞, 文章語) 否（いな）む。断（ことわ）る。
   • 1925年、喜田貞吉「人身御供と人柱」

     勿論この場合敵に提供するものは、必ずしも人間とのみは限らぬ。敵の要求する物品またこれを辞する事は出来ない。

   • 1925年、幸田露伴「蒲生氏郷」

     何はあれ氏郷は会津守護を命ぜられた。ところが氏郷も一応は辞した。それでも是非頼むという訳だったろう、そこで氏郷は条件を付けることにした。

4. (他動詞) （主に否定形で）厭（いや）がる。厭（いと）う。嫌（きら）う。
   • 1922年、賀川豊彦「空中征服」

     私らは死線を越えて徹底的に戦う積りであります。私らは、大阪市をこの煤煙の圧制より解放するために死も辞するものではありません。

   • 1948年、小山清「わが師への書」

     もともと僕は意気地なしなのです。人と和解するためならば、僕はその人の足の塵をはらうことも辞しないでしょう。

活用

辞-する 動詞活用表（日本語の活用）

サ行変格活用
語幹	未然形	連用形	終止形	連体形	仮定形	命令形
辞	し せ さ	し	する	する	すれ	せよ しろ

各活用形の基礎的な結合例

意味	語形	結合
否定	辞しない	未然形 + ない
否定	辞せず	未然形 + ず
自発・受身 可能・尊敬	辞される	未然形 + れる
丁寧	辞します	連用形 + ます
過去・完了・状態	辞した	連用形 + た
言い切り	辞する	終止形のみ
名詞化	辞すること	連体形 + こと
仮定条件	辞すれば	仮定形 + ば
命令	辞せよ 辞しろ	命令形のみ