のける【除ける・退ける】
- (他動詞) 〔おもに邪魔なものや不要なものなどを〕他の場所へ移動させる。どかす。どける。
- 1908年、小川未明「北の冬」[1]
- 「明日は天気だよ。」と母が後からいいなさる。私は頭をあげて、目深に被っていた、三角帽子を除けて野原の景色を眺めた。
- 1957年、中谷宇吉郎「黒い月の世界」[2]
- はたして、降雪開始後四日目の夕方、一フィート半くらい雪が積ったら、もうジープがところどころでスリップを始めた。その都度、雪をのけたり、石ころを入れたりして、やっと切りぬける始末であった。
- 1957年、江戸川乱歩「サーカスの怪人」[3]
- 「それを、きずつけないように、そっと砂をのけてください。」明智がさしずをします。男が、シャベルをよこにして、しずかに砂をのけていくにつれて、そのみょうなものは、だんだん大きくあらわれてきました。
- (他動詞) 計算や想定の中に含めない。無いものとみなす。のぞく。
- 1940年、久生十蘭「顎十郎捕物帳」[4]
- ところで、娘の花世をのけたら、命から二番目というその錦明宝が、どういうものか四日ほど前から急に元気が無くなった。
- 1945年、太宰治「新釈諸国噺」[5]
- 「お金は少し残して置いた。この中から、お前の正月のお小遣いをのけて、あとは借金取りに少しずつばらまいてやって、無くなったら寝ちまえ。[……]」と言い捨てて、小走りに走って家を出た。
- 1970年、和田春生、第63回国会衆議院[6]
- 事故が起こればいつも被害をこうむるのは船員である。その船員の推薦する委員をのけたというのは一体どういう了見ですか。
- (補助動詞) (連用形+助詞「て」に後続して)難しいことや心情的に行いづらいことを、見事に又は悪びれずに行う。
- 1926年、豊島与志雄「黒点」[7]
- けれど、不精髯がもじゃもじゃ生えてる父の顔は、何だか世の中に始終不平を懐いていて、何かのきっかけがあれば、どんな悪事をも平気でやってのけそうな感じだった。
- 1931年、海野十三「仲々死なぬ彼奴」[8]
- 「お前は一生懸命に勉強して、豪いものになるんだぞ。お金のことなんか考えずに、いいと信じたことをドンドンやってのけなさい。そうすると、お金なんか向うの方から自然に飛びこんで来る。[……]」
- 1934年、島木健作「癩」[9]
- 「癩病だよ」しゃがれた大声で一と口にスバリと言ってのけて、それから、ざまア見やがれ、おどろいたか、と言わんばかりの調子でヘッヘッヘッとひっつるような笑い声を長く引きながら監房の中に消えてしまった。
活用と結合例
各活用形の基礎的な結合例
意味 | 語形 | 結合 |
否定 | のけない | 未然形 + ない |
意志・勧誘 | のけよう | 未然形 + よう |
丁寧 | のけます | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | のけた | 連用形 + た |
言い切り | のける | 終止形のみ |
名詞化 | のけること | 連体形 + こと |
仮定条件 | のければ | 仮定形 + ば |
命令 | のけろ のけよ | 命令形のみ |