まわす【回す・廻す】
- 物体を円の軌跡を描くように動かす。
- 1937年、小川未明『こま』[1]
- 赤地の原っぱで、三ちゃんや、徳ちゃんや、勇ちゃんたちが、輪になって、べいごまをまわしていました。
- 1962年、梅崎春生『記憶』[2]
- 彼は立ち上り、部屋の隅の電話のダイヤルを廻した。
- 機械や仕組みなどを働かせる、機能させる。
- 1922年、賀川豊彦『空中征服』[3]
- 「我らは石炭を使用しないで機械を回すことは出来ないのであります」船場は立上って言うた。
- 1959年、森中守義、第33回参議院国会決算委員会[4]
- だから何回も申し上げたように、経験実績によって上積みされた予算を作る、歳入歳出の予算を作る、それで事業を回すという意味は、実際は管理監督で抑えつけながら事業を回している[……]
- カメラを回す。テープを回す。(=撮影や録画・録音する、再生する)
- 物や物事の担当などを、次に受け取るべき人へ順々に渡す。
- 1921年、菊池寛『入れ札』[5]
- おい、爺さん。早く筆を回してくんねえか。
- 1932年、島崎藤村『夜明け前』[6]
- 当時、お国替えの藩主を迎えた川越藩では、きびしいお触れを町家に回して、藩の侍に酒を売ることを禁じた。
- 1951年、久生十蘭『猪鹿蝶』[7]
- 木津さんに回状をまわして、大真面目な顔で年忌までやったあたしたちの立場がどうなると思っているのかしら。
- 車などを、ある場所へ向かわせる。
- 1939年、野上豊一郎『シェイクスピアの郷里』[8]
- 坂の上にも一軒、傾斜の角度のちがった二つの屋根と三つの煙突を持った古い家が立っていて形がおもしろいので、車をまわす間に写生した。
- 1958年、江戸川乱歩『奇面城の秘密』[9]
- 探照灯の光は、むねがわらのむこうまでは、とどきませんから、四十面相を見うしなわないためには、自動車を、むこうがわにまわして、そこから探照灯をあてるほかはありません。
- 何かの外周に沿うように動かし、ある場所に位置させる。
- 1924年—1926年、宮本百合子『伸子』[10]
- 伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。
- 1931年、海野十三『ネオン横丁殺人事件』[11]
- まず手にあたったのは、柱の切り屑のような木片だった。[……]その横の方に手を廻すと、ヒィヤリと金具らしいものが、指先にふれたので、それをグッと掌のうちに握った。
- 1956年、橘外男『墓が呼んでいる』[12]
- さっきから、もう、何度彼女の手に触れようとして、背へ手を回そうとして、そのたんびに胸を轟かせていたか、知れないのです。
- 何かの外周を囲むようにしてある。
- 1950年、野村胡堂『銭形平次捕物控 猿回し』[13]
- 平次は四つん這いになって床下にもぐりましたが、人間の入れるのは高縁の下だけあとは厳重な格子が回してあり、その一箇所に人間の歩いた足跡がついて、行詰ったところに、八五郎の見付けた獣の毛が付いて居たのでしょう。
- 余剰や不要になる・なったものを、他に費やす。
- 1952年、相馬愛蔵『私の小売商道』[14]
- 私の店ではこの点を考えて、午前午後の二回しか配達はやらない。このため浮いた金額は勉強の方へまわす。
- 1960年、滝井義高、第34回衆議院社会労働委員会[15]
- もし事務費に回す金があるならば、同じ会計の中ですから日雇いに回してくれたらいいのですが、どうですか。
- 2010年、菅直人「第174回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 」[16]
- 医療・介護や年金、子育て支援などの社会保障に不安や不信を抱いていては、国民は、安心してお金を消費に回すことができません。
- 物事を担当させる、担わせる。
- 1946年、宮本百合子『結集』[17]
- 問題となって、そこの女生徒全部を軍法会議にまわすと云って脅かした。
- 1948年、三好十郎『その人を知らず』[18]
- [……]精神カンテイもやらしたらしいが、そうでもないらしい。しかたがないので、警察の方へまわしたようだ。
- 1959年、柳田秀一、第33回衆議院議院運営委員会[19]
- [……]それだけの公正な態度をおとりになって、しかる後に懲罰委員会に回すべきである。
- 内野ゴロでスリーアウト。次打者に打順を回すことはできなかった。
- ある立場や位置に置く。
- 時期や順序を入れ替える。早めたり先送りしたりする。
- 働かせる。行き渡らせる。
- 輪姦する。
- (補助動詞) (他の動詞の連用形に続けて)徹底的に、全体的に、それをする。
- 1938年、豊島与志雄『女人禁制』[20]
- 東京湾で舟を乗りまわすのは面白い。
- 1939年、久生十蘭『キャラコさん』[21]
- 「特別な感情なんかもっていないようよ」「じゃ、なぜ、あんなにしつっこく兄をつけ廻すの」
- 1940年、太宰治『走れメロス』[22]
- 彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
活用と結合例
各活用形の基礎的な結合例
意味 | 語形 | 結合 |
否定 | まわさない | 未然形 + ない |
意志・勧誘 | まわそう | 未然形音便 + う |
丁寧 | まわします | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | まわした | 連用形音便 + た |
言い切り | まわす | 終止形のみ |
名詞化 | まわすこと | 連体形 + こと |
仮定条件 | まわせば | 仮定形 + ば |
命令 | まわせ | 命令形のみ |