べし
日本語
編集語源
編集古典日本語: べし
助動詞: 現代語
編集べし【可し】
- 他に強制する意味を表す。命令。
- 社長は、計画を実行す(る)べしと仰った。
- (打消形で)禁止の意味を表す。
- 芝生に立ち入るべからず。
- 義務。至当性。
- 一刻も早く撤去す(る)べきです。
- もっと勉強しとくべきだった。
- 必然的ななりゆきを表す。
- 然るべき時に行くことになるだろう。
- この事件は起こるべくして起きた。
- ふさわしいこと、値することを表す。妥当性。
- この件を相談すべき人が見つからない。
- 恐るべき人物だ。
- 目的や目標を表す。
- 販売ノルマを達成すべく全力を挙げる。
- (「なるべく」「べくんば」などの限られた連語・複合語の形で)可能や可能推定の意味を表す。~することができる。~することができそうだ。
接続
編集活用
編集活用は古語のク活用形容詞型に同じ。ただし、現代語としての(現代文の中で使われる)助動詞「べし」の活用形は、古語としての助動詞「べし」よりも限られている。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 | 活用型 |
---|---|---|---|---|---|---|
べから | べく | べし | べき | (無し) | (無し) | ク活用型 |
- 未然形、べから:打消しの助動詞「ず」が続く
- 1918年、和辻哲郎「『偶像再興』序言」[1]
- 偶像破壊が生活の進展に欠くべからざるものであることは今さら繰り返すまでもない。
- 1918年、和辻哲郎「『偶像再興』序言」[1]
- 連用形、べく:文を途中で中止する
- 1913年、大杉栄「新しい女」[2]
- 彼女等は真に人たるべく、何よりも先きに高等教育や高等職業やまたは参政権を要求しない。
- 1913年、大杉栄「新しい女」[2]
- 連用形、べく:係助詞「も」+形容詞「ない」が続く
- 1954年、北大路魯山人「欧米料理と日本」[3]
- かりに口になじむとしても、目に訴えて、心を喜びに導くような美しさは望むべくもないようだ。
- 1954年、北大路魯山人「欧米料理と日本」[3]
- 連用形、べく:動詞「する」連用形+接続助詞「て」が続く
- 1955年、坂口安吾「砂をかむ」[4]
- 五十ちかい年になってはじめて子ができるというのは戸惑うものである。できるべくしてできたというのと感じがちがって、ありうべからざることが起ったような気持の方が強いものだ。
- 1955年、坂口安吾「砂をかむ」[4]
- 連用形、べく:主題の係助詞「は」が続く(連用形の体言化)
- 2015年、大久保ゆう改訳、加藤朝鳥訳、アーサー・コナン・ドイル「橙の種五粒」[5]
- 「ではホーシャムの館にお出で下さると?」「いや、真相はロンドンにある。探るべくはそこだ。」
- 2015年、大久保ゆう改訳、加藤朝鳥訳、アーサー・コナン・ドイル「橙の種五粒」[5]
- 連用形、べく:仮定の古語係助詞「は」や、その音変化である「ば」「んば」が続く
- 終止形、べし:言い切り
- 1931年、小林多喜二「テガミ」[9]
- 此処を出入りするもの、必ずこの手紙を読むべし。
- 1931年、小林多喜二「テガミ」[9]
- 連体形、べき:名詞が続く
- 1927年、岸田國士「俳優養成と人材発見」[10]
- 今日まで新劇に志した俳優のうちで、相当才能に富んだ人々があつたに違ひない。それらの人々は、何故に自分達の進むべき道をはつきり教へられなかつたか。
- 1927年、岸田國士「俳優養成と人材発見」[10]
- 連体形、べき:助動詞「だ」「です」「だろう」などが続く
- 1962年、山川方夫「非情な男」[11]
- いい加減に、彼女はそれに気づくべきだ。彼女は、相手の選択をあやまった、というべきだろう。
- 1962年、山川方夫「非情な男」[11]
- 連体形、べき:主題の係助詞「は」が続く
- 1915年、寺田寅彦「科学上における権威の価値と弊害」[12]
- 万一の危険を恐れれば地震国の日本などには住まわぬがよいというと一般なものである。恐るべきは権威でなくて無批判な群衆の雷同心理でなければならない。
- 1915年、寺田寅彦「科学上における権威の価値と弊害」[12]
複合語・連語
編集古典日本語
編集助動詞: 古語
編集べし【可し】
- 推量の意味を表す。~しそうだ。~だろう。
- 空よりも落ちぬべき心地す。(竹取物語)
- 嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。(舞姬)
- 而モ尚交戰ヲ繼續セムカ (...) 人類ノ文明ヲモ破却スヘシ(大東亞戰爭終結ノ詔書)
- 予定の意味を表す。~するつもりだ。~することになっている。
- 舟に乘るべき所へわたる。(土佐日記)
- 当然の意味を表す。~するはずだ。
- 適当の意味を表す。~するのがよい。
- 可能の意味を表す。~することができる。
- (終止形・打消)他に強制する意味を表す。~するほうがよい。
- (終止形)意志の意味を表す。
- 必要・義務の意味を表す。~しなければならない。
接続
編集活用
編集未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用型 |
---|---|---|---|---|---|---|
べく (べけ) べかり | べく べかり | べし | べき べかる | べけれ | ○ | ク活用型 |
「べけ」は奈良時代まで用いられていた活用で、平安時代以降は漢文訓読の際に推量の「む(ん)」が後に続く場合のみ用いられた。
註
編集- ↑ 青空文庫(2011年3月29日作成、2012年3月22日修正)(底本:「偶像再興・面とペルソナ 和辻哲郎感想集」講談社文芸文庫、講談社、2007(平成19)年4月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49874_42655.html
- ↑ 青空文庫(2020年8月28日作成)(底本:「大杉栄全集 第14巻」日本図書センター、1995(平成7)年1月25日復刻発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000169/files/52157_71677.html
- ↑ 青空文庫(2009年12月4日作成)(底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所、2008(平成20)年4月18日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/49962_37766.html
- ↑ 青空文庫(2009年8月23日作成)(底本:「坂口安吾全集 15」筑摩書房、1999(平成11)年10月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/45739_36064.html
- ↑ 青空文庫(2014年3月25日作成、CC BY 2.1 JP公開)(底本:Arthur Conan Doyle (1891) "The Five Orange Pips")https://www.aozora.gr.jp/cards/000009/files/57322_57272.html
- ↑ 青空文庫(2006年11月15日作成)(底本:「時と永遠」岩波書店、1967(昭和42)年6月30日第8刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001011/files/42752_24929.html
- ↑ 青空文庫(2010年10月4日作成)(底本:「牧野信一全集第五巻」筑摩書房、2002(平成14)年7月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/45337_40782.html
- ↑ 青空文庫(2007年7月25日作成)(底本:「新装版 伊丹万作全集1」筑摩書房、1982(昭和57)年5月25日3版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000231/files/43868_27746.html
- ↑ 青空文庫(2002年2月19日公開、2005年12月12日修正)(底本:「日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集(七)」新日本出版社、1989(平成元)年3月25日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000156/files/2699_20747.html
- ↑ 青空文庫(2005年10月6日作成)(底本:「岸田國士全集20」岩波書店、1990(平成2)年3月8日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44408_19906.html
- ↑ 青空文庫(2021年4月27日作成)(底本:「親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選」創元推理文庫、東京創元社、2015(平成27)年9月30日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001801/files/59976_73217.html
- ↑ 青空文庫(2005年3月16日作成、2016年2月25日修正)(底本:「寺田寅彦全集 第五巻」岩波書店、1997(平成9)年4月4日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/42693_18075.html