やぶる【破る、敗る】
- (他動詞)薄いものを部分的にまたは完全に分断する。
- あわびの腸の中にはドロドロしたものがあって、それを薄い膜が包んでいる。これを破ると中の青白いドロドロのものが出るから、破らないように注意しなければならない。(北大路魯山人「鮑の水貝」)〔1934年〕[1]
- 模造紙の白い大きい封筒を破ると、その中からは、事務的な達筆で書いた手紙と、四つ折にした楽譜が二三枚出て来ました。(野村胡堂「死の舞踏」)〔1928年〕[2]
- 膿は腰、腹のあたりから、肉を破つて、でてくる。(坂口安吾「木々の精、谷の精」)〔1939年〕[3]
- (他動詞)身体の健康を損なう。
- こゝは地面が剣でできてゐる。お前たちはそれで足やからだをやぶる。(宮沢賢治「ひかりの素足」)〔1921?1922年〕[4]
- もし私が官吏になったら身を敗るのみです。(吉川英治「三国志」)〔1939–1940年〕[5]
- 持って生れた腕ぶしでも、磨かない力は、俗にいう莫迦力、くそ力とも申すもの。そういうものに慢じていると、いつかはきっと身をやぶるだろう。(吉川英治「剣の四君子」)〔1942年〕[6]
- (他動詞)障害を突破する。
- 入口には、ふつうの倍もある厚いドアがついていて、とても、やぶることはできません。(江戸川乱歩「探偵少年」)〔1955年〕[7]
- 公綱としてはわしを追い討ち、この陣を破りたく思ってはいようが、それにしては兵が少なすぎる。(国枝史郎「赤坂城の謀略」)〔1935年〕[8]
- 牛は、打たれた尻の痛さに、跳ね上りながら、柵を破つて、畑をふみ荒らした。(芥川龍之介「煙草と悪魔」)〔1916年〕[9]
- (他動詞)平穏な状況や安定した状況を突然乱す。
- すると、ドーンドーンとつづいて、しずかな空気をやぶる音がしたのでした。(小川未明「どこかで呼ぶような」)〔1949年〕[10]
- 人類は、元来、本能的に平和を好む動物である。故に、もし平和を破るものがあったならば、直ちに人類の仲間より排斥されるのである。(大隈重信「余が平和主義の立脚点」)〔1910年〕[11]
- その懐かしい少年時代の夢を破る時が遂に来った。(岡本綺堂「柳のかげ」)〔1937年〕[12]
- 何者だ、あの人間は。俺達の清興を敗ったのは。(蒲松齢「汪士秀」)〔田中貢太郎訳1926年〕[13]
- 水車の運動はことなき平生には、きわめて円滑にゆくけれど、なにかすこしでも輪の回転にふれるものがあると、いささかの故障が全部の働きをやぶるのである。(伊藤左千夫「箸」)〔1909年〕[14]
- (他動詞)守るべきことに反する。
- ここはただ持久を計れ、堅く守って討ッて出るなとしてあるに、副将のそちみずからなぜ軍律をやぶるか(吉川英治「私本太平記」)〔1958?1961年〕[15]
- 国際救難法により二十四時間は救援隊から離脱できないことになっているのに、ギンネコ号は、法規をやぶるつもりか(海野十三「怪星ガン」)〔1948?1949年〕[16]
- 待とう。あの人がすっかり話すのを待とう。約束を破るような人ではないのだ。(豊島与志雄「自由人」)〔1948?1949年〕[17]
- それが今度帰って聞きますと、甘の方では、私との約束を敗って、他と許婚なさるそうですから[…](蒲松齢「阿英」)〔田中貢太郎訳1926年〕[18]
- (他動詞)スポーツなどの競争し合う記録を上回る。
- 横山、寺田などもダメ、天野が戦争の直前ごろに、十八分五十八秒いくらかぐらいで、ようやくボルグの記録を破ったのである。(坂口安吾「安吾巷談」)〔1950年〕[19]
- リキ、わかつた、わかつた。余計な心配なんかせずに、おれの四分二十のレコードを破つて来い。(岸田國士「道遠からん 四幕」)〔1950年〕[20]
- (他動詞)打ち負かす。
- この星を見た独軍はたちまち仏軍の勝利を迷信しだして、カイゼルの軍はもはや仏軍を敗ることができないといっている。(井上円了「迷信と宗教」)〔1916年〕[21]
- わが術を破り得るほどの者、天下ひろしといえども、わが白雲斎師匠を除いて、ほかにはない筈だが、伊賀流か、甲賀流か、何れにしても手強い奴!(織田作之助「猿飛佐助」)〔1945年〕[22]
活用と結合例
各活用形の基礎的な結合例
意味 | 語形 | 結合 |
否定 | やぶらない | 未然形 + ない |
意志・勧誘 | やぶろう | 未然形音便 + う |
丁寧 | やぶります | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | やぶった | 連用形音便 + た |
言い切り | やぶる | 終止形のみ |
名詞化 | やぶること | 連体形 + こと |
仮定条件 | やぶれば | 仮定形 + ば |
命令 | やぶれ | 命令形のみ |