利用者:エリック・キィ/ja/言語学/ハンガリー語/格
ウィクショナリー日本語版においてハンガリー語の単語を扱おうとすると、大半の品詞において見られる多くの変化形を全て網羅する事が最終的に目指すべき理想形になると思われる。しかしハンガリー語の場合動詞の活用はともかく、それ以外の多くの品詞において見られる格変化をen:Template:hu-infl-nomの様な一覧表にまとめて表そうとすると、様々な困難が伴う。現段階において主に問題となるのは、格の数と和訳についてである。まず、格の数え方は研究者によってばらつきがあり、多い場合で20種以上であるが、そもそもはっきり全体の数について述べられていない場合が多い。そこで、テンプレートにおいて扱う種類数を検討しておいた方が良いと思われる。そして、仮に扱う種類数をうまく限定することができたとしても、名称の日本語訳をどうするかという問題が控えている。これについても以下で検討を行いたいところである。
術語対応表
編集以下に、3言語間の術語の対応を表としてまとめておく。
雑記
編集日本語のハンガリー語文法書では、系統的に関連性のあるフィンランド語の場合に比べると、「これは…格である」というような、日本語母語話者の多くにとって普段馴染みがないと思われる格の名前を示す説明の仕方はあまり高い頻度では見られない様に思われる。大学書林を通して数多くのハンガリー語語学書を出した今岡十一郎の1969年の著作では、「原則的には, 格は四つ」と断言されている。その4つの内訳とは第一格(主格)、第二格(属格)、第三格(与格)、第四格(目的格、対格)[注 1]であり、他は単に「…を表す/…の 接尾辞」とする傾向が見られる。大島 (2009) は「…格」という表現が為されている箇所がほとんど見られない。早稲田・バルタ (2011) や岡本 (2013) といった大阪大学外国語学部関係者による出版物では、対格や与格といった印欧語語学にも用いられているものを除けば、積極的な言及は見られず、今岡 (1969) 同様に「…をあらわす接尾辞」という言い回しが目立つ。これらのうち、少なくとも早稲田・バルタ (2011) は一般向けのために敢えて「…格」という表現を避けているものと思われる。それと言うのも、後述するように早稲田・徳永 (1992) や早稲田 (1995) では積極的な使用が見られる為である。他にハンガリー語を主としている訳ではないが、野瀬 (2011) は20種以上あるとしている先行研究の存在をほのめかした上で基本的には18種類であるとし、また時格(英: Temporal)や配分格(英: Distributive-temporal)はその18種類には含まれず派生接尾辞(英: derivational suffix)と見做されるとしている。ただ論文の性質上、その18種類全ての詳しい内訳については論じていない。
Iggesen (2013) はハンガリー語において実用性が高い傾向にある[注 2]格の数を21と判断しており、その根拠として Tompa (1968: 206–209) による hajó 〈船〉の変化を引用しているが、その引用元を確かめたところ、更に6種類の格[注 3]が扱われている事が判明した。その6つとは、Temporal、Genitiv、Distributiv-Temporal、Multiplikativ、1. Modal-Essiv、2. Modal-Essiv である。トンパはこのうち Distributiv-Temporal と 2. Modal-Essiv については古風なもので、限られた慣用表現にのみ用いられるとされており[注 4]、また Multiplikativ、1. Modal-Essiv、2. Modal-Essiv の3つについては名詞が形容詞的あるいは数詞的に機能している場合のみに用いられる旨を述べている。
Tompa (1968) は早稲田・徳永 (1992) でも参考文献の一つとされており、トンパが格として分析した27種類全てに加え「特定の地名につく場所格 (locativus) -t/-tt」にも言及、日本語訳を添えつつも、28種類という数はあくまでもそうした説があるレベルの話であり「生産的な格接尾辞」であるのは次の18種類であるとしている(上表の緑背景のもの)。早稲田 (1995:35-36) における格接尾辞もほぼ同じ内訳である。
- 主格 (nominativus)
- 対格 (accusativus)
- 与格 (dativus) = 属格 (genitivus)
- 内格 (inessivus)
- 入格 (illativus)
- 出格 (elativus)
- 上格 (superessivus)
- 着格 (sublativus)
- 離格 (delativus)
- 接格 (adessivus)
- 向格 (allativus)
- 奪格 (ablativus)
- 到格 (terminativus)
- 因格 (causalis-finalis)
- 具・共格 (instrumentalis-komitativus)
- 変格 (translativus-factivus)
- 様格 (essivus-formalis)
脚注
編集注釈
編集- ↑ なお、この区分の仕方はドイツ語の体系に酷似している。
- ↑ 典拠では productive という表現が用いられている。この形容詞は文法に関する文脈においては通常「生産的な」あるいは「造語力が高い」と訳されるが、前者は言語学に慣れていない読者にとっては分かりにくく、また後者については、今回は1語の単位であっても起こり得る格変化という現象について扱う関係上、定訳を用いる事は避けた。
- ↑ トンパが pp. 206–209 の表に付した題は Übersicht der nominalen Relationssuffigierung 〈名詞類関係接尾辞の一覧表〉である。直接〈格〉にあたる表現は用いられていないが、事項索引で Kasussuffixe 〈格接尾辞〉と引くと Relationssuffixe 〈関係接尾辞〉に誘導される為、Iggesen の引用の仕方は妥当なものであると思われる。
- ↑ 実はトンパは Essiv-Modal についても他2つと同種の制約があるとしているが、上表の通り Iggesen は productive であるとしている。
出典
編集参考文献
編集- Iggesen, Oliver A. (2013). "Number of Cases." In Matthew S. Dryer and Martin Haspelmath (eds.) The World Atlas of Language Structures Online. Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology. 2017年4月11日閲覧。
- 今岡十一郎 (1969).『ハンガリー語四週間』大学書林。
- 文部省 編 (1997).『学術用語集 言語学編』日本学術振興会。ISBN 4-8181-9506-5
- 野瀬昌彦 (2011).「時間表現に関する対照言語学的研究: 日本語と英語, ハンガリー語, トクピシン」 野瀬昌彦 編『日本語とX語の対照 ―言語を対照することでわかること― 対照言語学若手の会シンポジウム2010発表論文集』三恵社、164-173頁。ISBN 978-4-88361-876-7
- 岡本真理 (2013).『大阪大学外国語学部 世界の言語シリーズ8 ハンガリー語』大阪大学出版会。ISBN 978-4-87259-332-7
- 岡本真理 (2014).『CD付 ゼロから話せるハンガリー語[改訂版]』三修社。ISBN 978-4-384-04607-6
- 大島一 (2009).『ハンガリー語のしくみ(CD付)』白水社。ISBN 978-4-560-08519-6
- Tompa, József (1968). Ungarische Grammatik. (Janua Linguarum, Series Practica, 96). The Hague: Mouton.
- 早稲田みか (1995).『ハンガリー語の文法』大学書林。ISBN 4-475-01818-8
- 早稲田みか、バルタ・ラースロー (2011).『ニューエクスプレス ハンガリー語(CD付)』白水社。ISBN 978-4-560-08552-3
- 早稲田みか、徳永康元 (1992). 「ハンガリー語」 亀井孝、河野六郎、千野栄一 編 『言語学大辞典』第3巻、三省堂、361-371頁。ISBN 4-385-15217-9