一番

日本語

この単語の漢字
一	番
いち 第一学年	ばん 第二学年
音読み	音読み

名詞・形容動詞

一番 (いちばん)

1. 質や量の度合いを基準にして複数の事物を比べ、それらの事物の中で、度合いがより大きい他のものが存在しない位置にあること。または、そのような様。
   • 今年の二百めえとる競走で、一番を取るのは、今雄さんだらうか、京一さんだらうかといふことが、村中の評判になりました。（沖野岩三郎「にらめつくらの鬼瓦」）〔1925年〕
   • 小さい時分から絵を描くのが一番の楽しみでした。（上村松園「今日になるまで」）〔1940年〕
   • 今僕にとつてこの絵の一番の重要性は、この絵に写してある、金網の目の大きさである。（木村荘八「立見の金網について」）〔1949年〕
2. 最も優れること。または、そのような様。
   • 胃弱には晩酌が一番だと思う（夏目漱石「吾輩は猫である」）〔1905–1906年〕
   • 何と云っても、警察へ届けるのが一番だけれども、それは出来なかった。（甲賀三郎「愛の為めに」）〔1926年〕
   • 一休を人間的に見る一番な手がかりには「狂雲集」といふ詩集がありますがね。（吉川英治「歴史上の人物あれこれ」）〔1953年〕
3. スポーツや勝負事における、各各の試合や勝負。
   • 果せる哉、件の組はこの勝負に蓬き大敗を取りて、人も無げなる紳士もさすがに鼻白み、美き人は顔を赧めて、座にも堪ふべからざるばかりの面皮を欠されたり。この一番にて紳士の姿は不知見えずなりぬ。（尾崎紅葉「金色夜叉」）〔1897年〕
   • よしッ、それほど言うなら、この一番に負けたら、今日一日、お前が親分で俺が子分だ。（野村胡堂「銭形平次捕物控」）〔1933年〕
4. 一番列車の略。
   • ハイと云ったら何時でいらっしゃいます？　一番で。一番よりも急行の方が便利でございますよ。急行は何時？（知里幸恵「手紙」）〔1922年〕
   • ですから今度の日曜の一番で立って、つれてきます。その手筈をたててきましたから。（坂口安吾「町内の二天才」）〔1953年〕
5. 日本の伝統的な歌舞音曲の一曲。
   • 翁は一番の謡を教えると必ずその能を舞わせる方針らしかった。（夢野久作「梅津只圓翁伝」）〔1934年〕
6. (音楽) 唱歌や歌謡曲などの歌で、くり返して歌われる一連の部分のうち、最初のもの。
   • じぶんの声に嫌悪を感じたし、ちゃんと歌詞を憶えていなかったので、一番をくりかえし歌っていたが、それもいやになった。（鶴岡雄二「45回転の夏」）〔1994年〕
7. 割り当てられた番号の数字が一であること。または、そのような数字を割り当てられたもの。
   • 以上のことから、皆様に30ページの6点のお願いを申し上げたいと思います。大変恐縮ですが、順番を変えさせていただきました。二番を一番に、一番を二番にさせていただきたいと思います。（文部科学省、教育振興基本計画部会）〔2017年〕

用法

• 語義2は語義1の狭義といえるが、基準を特に示さなかったり、あるいは文脈的に基準が明らかでないときに、単に「一番」と表すと語義2と解釈されるのが一般的。

活用と結合例

一番-だ 形容動詞活用表（日本語の活用）

ダ活用
語幹	未然形	連用形	終止形	連体形	仮定形	命令形
一番	だろ	だっ で に	だ	な	なら	(無し)

各活用形の基礎的な結合例

意味	語形	結合
推量・意志	一番だろう	未然形 + う
過去・完了	一番だった	連用形 + た
否定形	一番でない	連用形 + ない
自動詞化	一番になる	連用形 + なる
言い切り	一番だ	終止形のみ
名詞化	一番なこと	連体形 + こと
仮定条件	一番ならば	仮定形 + ば
様態	一番そうだ	語幹 + そうだ

類義語

• （語義1）一等、トップ、最初
• （語義2）最良、最高

派生語・複合語

• 此処一番
• 一番星
• 春一番
• 大一番
• いの一番
• 開口一番
• 一番煎じ
• 一番駆け
• 一番弟子
• 一番風呂
• 一番列車
• 一番船

副詞

一番 (いちばん)

1. 被修飾語の度合いを基準にして複数の事物を比べ、それらの事物の中で、度合いがより大きい他のものが存在しない位置にある。
   • 日本の食品中で、なにが一番美味であるかと問う人があるなら、私は言下に答えて、それはふぐではあるまいか、と言いたい。（北大路魯山人「海にふぐ山にわらび」）〔1931年〕
   • 小鳥のうちで巣をつくりはじめるのは、もずが一番早い。（佐藤垢石「探巣遅日」）〔1940年〕
   • 公共放送としては、こういう番組こそ、一番大切なものである。（中谷宇吉郎「テレビの科学番組」）〔1959年〕
2. 覚悟を決め、やってみようとするさま。
   • これから、よろしく、教えて下さい。直立不動の姿勢でもってそうお願いしてしまったので、商人、いいえ人違いですと鼻のさきで軽く掌を振る機会を失い、よし、ここは一番、そのくぼたとやらの先生に化けてやろうと、悪事の腹を据えたようである。（太宰治「狂言の神」）〔1936年〕

類義語

• （語義1）もっとも、一等、この上なく。
• （語義2）ひとつ、一丁。