日本語

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動詞

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じる (つうじる)

  1. (自動詞) 精通する。詳しい
    • 1924年、小酒井不木「紅色ダイヤ」[1]
      探偵になるには動物、鉱物、植物学や物理、化学、医学の知識がいるので、俊夫君は一生懸命に勉強しましたが、三年たたぬうちに、それらの学問に通じてしまいました。
    • 1942年、佐藤垢石「氷湖の公魚」[2]
      鯛や鯖の産地。鰻や鯉、鮎などの天然の産か養殖ものか、網でとったものか釣ったのか、などということは少し食味に通じた人ならば舌先で分ける。
    • 2024年、有山知希ほか「クイズコンペティションの結果分析から見た 日本語質問応答の到達点と課題」[3]
      従って,日本語を用いた質問応答タスクに取り組むことは,日本語圏の文化に関する内容に通じている質問応答システムを作ることに繋がると考えられる.
  2. (自動詞) 効果発揮する。効く
    • 1941年、太宰治「新ハムレット」[4]
      このごろ、めっきり、こわくなった。お前には、わしの駈引きが通じない。すぐ見破ってしまう。
    • 2005年、小泉純一郎、第162回国会参議院[5]
      事実、高度成長のときは、ケインズ理論からいって、ある程度国債発行すると、公共事業増やせば景気良くなってくるという理論が一時的には通じたんです。
  3. (自動詞) ~と密か関係を持つ。内通する。
    • 1931年、林不忘「安重根」[6]
      張首明と通じているんだ。あの床屋の張よ。先刻あいつがやって来て露れたんだが、おれは前から知っていた。
    • 1946年、永井荷風「来訪者」[7]
      白井は学生のころ十八で、一ツ年の多い隣家の娘と通じ忽ち子供をこしらへてしまつたので、誰にきかれても家庭の事は言ひたくないのであつた。
  4. (自動詞) インフラなどが)作り設けられる。行きわたる引かれる。
    • 1901年、国木田独歩「武蔵野」[8]
      しかし東京の南北にかけては武蔵野の領分がはなはだせまい。ほとんどないといってもよい。これは地勢のしからしむるところで、かつ鉄道が通じているので、すなわち「東京」がこの線路によって武蔵野を貫いて直接に他の範囲と連接しているからである。
    • 1957年、梅崎春生「腹のへった話」[9]
      花蓮港というのは東海岸にあり、東海岸は切り立った断崖になっている関係上、その頃まだ道路が通じてなく、蘇澳から船便による他はなかった。
  5. (自動詞) 理解される。意味伝わる
    • 1922年、寺田寅彦「一つの思考実験」[10]
      こう言ってもおそらく私の言わんと欲するところは容易に通じないだろうと思う。それでくどいようでも同じ事を繰り返す事を許してもらいたい。
    • 1944年、坂口安吾「鉄砲」[11]
      天文十二年八月二十五日(四百一年前)乗員百余名をのせた支那船が種子ヶ島に漂着した。言葉は通じなかつたが、五峯といふ明の儒生が乗つてゐて筆談を交すことができた。
  6. (自動詞) (ある地点場所に)つながる至る
    • 1936年、永井荷風「放水路」[12]
      橋の欄干に昭和六年九月としてあるので、それより以前には橋がなかったのであろうか。あるいは掛替えられたのであろうか。ここに水門が築かれて、放水路の水は、短い堀割によって隅田川に通じている。
    • 1946年、宮本百合子「みのりを豊かに」[13]
      バラックの駅長事務所で、小雨に打たれて列に立ちながら、連絡について、いくらかでも具体的なことを知りたいと思ったら、若い駅員は、最後に「どことも電話が通じないんだから分らんよ」と答えた
    • 1953年、片山廣子「L氏殺人事件」[14]
      先生たちの部屋の前の廊下に、東に向いた階段があつて玄関に通じ、西に向いた裏の階段がキツチンや小使部屋に通じた。
  7. (自動詞) 基礎要点において同じである。共通する。直結する。
    • 1950年、中井正一「二十世紀の頂における図書館の意味」[15]
      「話せばわかる」といった犬養氏に、「問答無用!」と拳銃の引き金を引いた考え方が、真直に真珠湾攻撃に通じている。
    • 1954年、坂口安吾「ヒノエウマの話」[16]
      男兄弟の五人目だから五の字がついてるが、炳はアキラカというような意味のほかにこれ一字でヒノエウマを表している字でもある。また、ヘイゴという音はヒノエウマの丙午に通じてもおって、ヒノエウマづくしのような名前だ。
    • 2022年、松井英男「生活習慣病と言われたら」[17]
      さらに、生活習慣病の発症には、エピゲノムの変化が関与していることも明らかにされつつあり、その根本的な治療は老化の治療に通じるものがある。
  8. (他動詞) 電気電流を)流す
    • 1934年、海野十三「科学が臍を曲げた話」[18]
      それは電気メスです。超短波電流をナイフ様の尖った金属片に通じ、これを肉に近づけると、面白いほど切れます。
    • 1942年、石原純「トーマス・エディソン」[19]
      エディソンはまず炭素の纎条を使おうと考えましたが、それにはこれを空気のない場処に置かなくてはなりませんから、そこで電球を硝子でつくって、最初は紙を炭化してそのなかに入れ、内部の空気を排除しました。これに電気を通じて、どうやら光らせることができましたけれども、直きに焼け切れてしまうので、今度は木綿糸を炭化して用いました。
  9. (他動詞, 古用法) インフラなどを)作り設ける。行きわたらせる。引く。
    • 1919年、菊池寛「恩讐の彼方に」[20]
      二百余間に余る絶壁を掘貫いて道を通じようという、不敵な誓願が、彼の心に浮かんできたのである。
    • 1937年、富山房編輯部「国語科教授の実際」[21]
      〔……〕四年郵便を京阪間に始め、五年徴兵令を布き、京濱間に鐵道を通じ、又太陽暦を採用して同年十二月三日を六年一月一日と定められた。
  10. (他動詞) 分からせる。知らせる
    • 1938年、與謝野晶子訳、紫式部「源氏物語」[22]
      いろいろのことはまた自身でまいって申し上げましょう。また十分ではなくてもこの小君が今日のことをあなたに通じてくださるかと思います。
    • 1951年、佐々木邦「ロマンスと縁談」[23]
      僕も大学は相当の成績だった。会社の方も卒業前に定ったので、彼方此方であぶれた連中とは違う。現在は押しも押されもしない。そういうことをそれとなく先生に通じてある。
  11. (他動詞) (主に「~を通じ」「~を通じて」の形で)~を仲介にする。媒介にする。介する
    • 1951年、宮本百合子「修身」[24]
      戦後の子供がラジオを通じレコードを通じ、なじんで歌う歌は、軽快に、明るくたのしく、リズミカルであるように、と児童の心理に即して選ばれている。
    • 2024年、渡邉英徳「デジタルアーカイブと実展示:時空間を撹拌し“フロー”化する空間」[25]
      この展示空間では、過去の資料が最新技術を通じて生き生きと表現され、鑑賞者にとって学びと発見の豊かな経験を提供する。
  12. (他動詞) (主に「~を通じ」「~を通じて」の形で)~のあいだ途切れずに続く
    • 1921年、和辻哲郎「『劉生画集及芸術観』について」[26]
      そこには過去現在を通じて数限りのない人間がその生命を投入し、その精神をささげて実現に努力した大いなる「価値の体系」がある。
    • 1943年、牧野富太郎「植物記」[27]
      松は四季を通じていつも緑の色を湛えた常磐木で、それが雪中にあってもなお青々として凋まず、いわゆる松柏後凋の姿を保っている。
  13. (他動詞) (主に「~を通じ」「~を通じて」の形で)~の全体考える
    • 1930年、佐々木邦「負けない男」[28]
      従来三十銭だったのをこの春から二十五銭に下げた。本社支店工場を通じて約千名の社員だから、僅か五銭でも馬鹿にならない。
    • 1940年、岸田國士「レオポール三世の悲劇」[29]
      白耳義軍が国王レオポール三世の命によつて遂に武器を投じたといふことは、今度の欧洲戦乱を通じての、恐らく最も悲痛な事件であらう。

活用

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つう-じる 動詞活用表日本語の活用
ザ行上一段活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形
つう じる じる じれ じよ
じろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 つうじない 未然形 + ない
意志・勧誘 つうじよう 未然形 + よう
丁寧 つうじます 連用形 + ます
過去・完了・状態 つうじた 連用形 +
言い切り つうじる 終止形のみ
名詞化 つうじること 連体形 + こと
仮定条件 つうじれば 仮定形 +
命令 つうじよ
つうじろ
命令形のみ

派生語

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  1. 青空文庫、2006年5月5日作成、2011年4月30日修正(底本:「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」論創社、2004(平成16)年7月25日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000262/files/45693_23112.html
  2. 青空文庫、2007年7月2日作成(底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社、1992(平成4)年9月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001248/files/46809_27407.html
  3. 有山 知希, 鈴木 潤, 鈴木 正敏, 田中 涼太, 赤間 怜奈, 西田 京介, クイズコンペティションの結果分析から見た 日本語質問応答の到達点と課題, 自然言語処理, 2024, 31 巻, 1 号, p. 47-78, 公開日 2024/03/15, Online ISSN 2185-8314, Print ISSN 1340-7619, https://doi.org/10.5715/jnlp.31.47, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnlp/31/1/31_47/_article/-char/ja CC BY 4.0で公開
  4. 青空文庫、2003年1月27日作成(底本:「新ハムレット」新潮文庫、新潮社、1998(平成10)年7月20日33刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1576_8585.html
  5. 「第162回国会 参議院 財政金融委員会 第6号 平成17年3月28日」国会会議録検索システム https://kokkai.ndl.go.jp/txt/116214370X00620050328/169 2024年9月23日参照
  6. 青空文庫、2003年8月20日作成、2008年9月30日修正(底本:「一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社、1970(昭和45)年1月15日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000272/files/1805_12060.html
  7. 青空文庫、2019年11月24日作成(底本:「荷風全集 第十八巻」岩波書店、1994(平成6)年7月27日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/56225_69721.html
  8. 青空文庫、1998年10月21日公開、2004年6月17日修正(底本:「日本文学全集12 国木田独歩 石川啄木集」集英社、1972(昭和47)年9月10日9版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000038/files/329_15886.html
  9. 青空文庫、2019年6月28日作成(底本:「「あまカラ」抄1」冨山房百科文庫、冨山房、1995(平成7)年11月13日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001798/files/59871_68495.html
  10. 青空文庫、2003年6月25日作成(底本:「寺田寅彦随筆集 第二巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店、1997(平成9)年5月6日第70刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2448_11124.html
  11. 青空文庫、2008年10月15日作成(底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房、1999(平成11)年3月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/45886_33226.html
  12. 青空文庫、2010年4月15日作成、2019年12月12日修正(底本:「荷風随筆集(上)」岩波文庫、岩波書店、2006(平成18)年11月6日第27刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/49661_69852.html
  13. 青空文庫、2003年9月14日作成(底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3431_12337.html
  14. 青空文庫、2010年10月14日作成(底本:「燈火節」月曜社、2004(平成16)年11月30日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001346/files/50160_41223.html
  15. 青空文庫、2005年3月25日作成(底本:「中井正一評論集」岩波文庫、岩波書店、1995(平成7)年6月16日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001166/files/43714_18213.html
  16. 青空文庫、2008年4月15日作成(底本:「坂口安吾全集 14」筑摩書房、1999(平成11)年6月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42961_31184.html
  17. 松井 英男, 生活習慣病と言われたら, 川崎高津診療所紀要, 2022, 3 巻, 2 号, p. 172-180, 公開日 2023/06/05, Online ISSN 2758-6766, https://doi.org/10.60232/ktsk.3.2_172, https://www.jstage.jst.go.jp/article/ktsk/3/2/3_172/_article/-char/ja CC BY 4.0で公開
  18. 青空文庫、2005年6月14日作成(底本:「海野十三全集 別巻1 評論・ノンフィクション」三一書房、1991(平成3)年10月15日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/43663_18743.html
  19. 青空文庫、2019年1月29日作成(底本:「偉い科學者」實業之日本社、1942(昭和17)年10月10日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001429/files/58161_66964.html
  20. 青空文庫、1999年2月1日公開、2005年10月13日修正(底本:「菊池寛 短編と戯曲」文芸春秋、1988(昭和63)年3月25日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000083/files/496_19866.html
  21. 富山房編輯部 編『国語科教授の実際 : 帝国読本提要』巻1,富山房,昭和12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1052893 (参照 2024-09-25)
  22. 青空文庫、2003年3月23日作成(底本:「全訳源氏物語 下巻」角川文庫、角川書店 、1995(平成7)年5月30日40版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000052/files/5071_15350.html
  23. 青空文庫、2021年7月27日作成(底本:「佐々木邦全集 補巻5 王将連盟 短篇」講談社、1975(昭和50)年12月20日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001750/files/55831_73886.html
  24. 青空文庫、2003年9月14日作成(底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3499_12405.html
  25. 渡邉 英徳, デジタルアーカイブと実展示:時空間を撹拌し“フロー”化する空間, デジタルアーカイブ学会誌, 2024, 8 巻, 1 号, p. 3-5, 公開日 2024/03/25, Online ISSN 2432-9770, Print ISSN 2432-9762, https://doi.org/10.24506/jsda.8.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsda/8/1/8_3/_article/-char/ja CC BY 4.0で公開
  26. 青空文庫、2011年10月21日作成(底本:「和辻哲郎随筆集」岩波文庫、岩波書店、2006(平成18)年11月22日第6刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49876_45587.html
  27. 青空文庫、2015年3月1日作成、2022年4月25日修正(底本:「植物記」ちくま学芸文庫、筑摩書房、2008(平成20)年12月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/51368_56013.html
  28. 青空文庫、2020年10月28日作成(底本:「佐々木邦全集2 次男坊 負けない男 凡人伝 短篇」講談社、1974(昭和49)年11月20日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/51368_56013.html
  29. 青空文庫、2010年1月20日作成(底本:「岸田國士全集24」岩波書店、1991(平成3)年3月8日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44647_38003.html