あれ

日本語

代名詞

あれ【彼（れ）、那（れ）】

距離的、時間的、または心理的に、話し手からも聞き手からも遠（とお）くにあるものごとや人格を意識されない人、また時節や状況。
- あれが市役所です。
- あれは誰？
- あれはもう昔のことだ。
- あれからすっかり元気になった。
- あれほどはひどくない。
- あれで一体何か面白いのか。
- あれはあれでいいだろう。
距離的、時間的、または心理的に、話し手からも聞き手からも遠（とお）くにある人（ひと）。（その人を見下した表現とされる）。あいつ。
- あれにも困ったもんだ。
(古用法) 距離的に話し手からも聞き手からも遠（とお）くにある場所。あそこ、かなた。
- あれに見えるは茶摘みじゃないか
（「あれで」「あれでいて」「あれでも」などの形で）見かけと違って。ああ見えて。案外。意外と。
- からだの弱さうな、気の弱さうな人であるけれども、あれで却々野心家だとも思つてゐた。（中原中也『逝ける辻野君』）
（「あれだろう」「あれじゃないか」「あれだ」などの形で）事情を確認・説明する際の導入句として。知ってのとおり。たしかこのように聞いているが。自分はこう思うが。
- 真紀　あなたのお裁縫は、私が見たって、到底卒業の見込みはありゃしないよ。
あさ子　あら。（悄気て）困るわ。あたし、ちっとも怠けてなんかいやしないのよ。だけど、あれでしょう三年間ちっともお針なんか持たなかったんだもの。そりゃ、女学校の時分はやったけれど。（森本薫『みごとな女』）
- 「なるほど、これはふしぎなもくねじだね。たしかに出来損いだ。それにしても、よくまあこんなものが出来たもんだ。これはあれだよ。旋盤の中心が何かの拍子に狂ったのだ。だからこっちとこっちとが、よけいに深く削られている。（略）」（海野十三『もくねじ』）
事物。もの。それ。そのこと。
- こゝで風俗といふ意味は、勿論広い意味である。フランス語で mœurs といふあれである。（岸田國士『“現代風俗”に就いて』）
（述語に用いられて）おかしい、こまる、具合が悪い、いきすぎだなどのニュアンスを表す。〜何だ。
- 私が言うのもあれだが、もしあれだったら、そこまでやるのもあれなんで。
言葉をぼかす。または頭に浮かばない言葉の代わりとして。
- 久しぶりにあれをしようとしたら急にあれが始まっちゃって。
- あれのあれをあれしてもらえるとあれなんだけど。

発音

(東京式) あれ [àré] (平板型 – [0])
IPA^(?): [a̠ɾe̞]
(京阪式) あれ

派生語

ありゃ、あれあれ、あれから、あれきり、あれくらい、あれぐらい、あれこれ、あれしき、あれだけ、あれっきり、あれっぱかり、あれっぽっち、あればかり、あれほど、あれもこれも、あれやこれや、あれよ、あれよあれよ、あんだけ

日本語の指示詞
	近称（こ-）	中称（そ-）	遠称（あ-）	不定称（ど-）
指示代名詞	これ [複数: これら]	それ [複数: それら]	あれ [複数: あれら]	どれ
指示代名詞	こいつこちらさまこなた	そいつそちらさまそなた	あいつあちらさまあなた	どいつどちらさまどなた
連体詞	この	その	あの	どの
場所	こここっから	そこそっから	あそこ	どこどっから
方向	こちら・こっち	そちら・そっち	あちら・あっち	どちら・どっち
態様	こうこんなこんくらいこんだけ	そうそんなそんくらいそんだけ	あああんなあんくらいあんだけ	どうどんなどんくらいどんだけ

翻訳

語義1

アイスランド語: þessi ^(is) 男性, 女性, þetta ^(is) 中性, sá ^(is) 男性, sú ^(is) 女性, það ^(is) 中性
アイルランド語: sin ^(ga), siúd ^(ga)
アフリカーンス語: daardie ^(af)
アラビア語: ذَاكَ‎ ^(ar) 男性 (ḏāka), ذٰلِكَ‎ ^(ar) 男性 (ḏālika), تِلْكَ‎ ^(ar) 女性 (tilka)
アラビア語エジプト方言: الي هناك دا‎ ^(arz) 男性 (illi hnāk da), الي هناك دي‎ ^(arz) 女性 (illi hnāk di)

アラビア語チュニジア方言: هَذَاكَ‎ ^(aeb) 男性 (haḏāka), هَذِيكَ‎ ^(aeb) 女性 (haḏīka)
アルーマニア語: atsel ^(roa-rup) 男性
アルメニア語: դա ^(hy) (da)
イタリア語: quello ^(it) 男性, quella ^(it) 女性
イド語: ito ^(io), to ^(io)
インターリングア: illo ^(ia), illos ^(ia) 複数
インドネシア語: itu ^(id)
ウェールズ語: hwnnw ^(cy) 男性, honno ^(cy) 女性, hynny ^(cy)
ヴェネツィア語: cuel ^(vec)
ウクライナ語: то ^(uk) (to), те ^(uk) (te)
英語: that ^(en)
古英語: se ^(ang) 男性, sēo ^(ang) 女性, þæt ^(ang) 中性
エスペラント: tio ^(eo)
オランダ語: dat ^(nl)
カタルーニャ語: allò ^(ca)
カラハン語: اُلْ‎ (ol)
カンナダ語: ಅವನು ^(kn) 男性 (avanu), ಅವ ^(kn) 男性 (ava), ಅವಳು ^(kn) 女性 (avaḷu), ಅದು ^(kn) 中性 (adu)
ギリシア語: αυτός ^(el) 男性 (aftós), αυτή ^(el) 女性 (aftí), αυτό ^(el) 中性 (aftó), αυτοί ^(el) 複数 (aftoí), αυτές ^(el) 女性複数 (aftés), αυτά ^(el) 中性複数 (aftá)
古典ギリシア語: ταῦτα ^(grc) 中性複数 (taûta)
クメール語: នោះ ^(km) (nuh)
ゴート語: 𐍃𐌰𐌴𐌹 ^(got) 男性 (saei), 𐍃𐍉𐌴𐌹 ^(got) 女性 (sōei), 𐌸𐌰𐍄𐌴𐌹 ^(got) 中性 (þatei)
コーンウォール語: henna ^(kw) 男性, honna ^(kw) 女性
ゼーランド語: dat ^(zea)
シンド語: اُهو‎ ^(sd) 男性, اُها‎ ^(sd) 女性
スウェーデン語: den ^(sv) 通性, denna ^(sv) 通性, den där ^(sv) 通性, det ^(sv) 中性, detta ^(sv) 中性, det där ^(sv) 中性
スペイン語: aquél ^(es) 男性, aquélla ^(es) 女性
スロヴァキア語: to ^(sk) 中性
セルビア・クロアチア語:
キリル文字: то ^(sh), оно ^(sh) 中性

ラテン文字: to ^(sh), ono ^(sh) 中性
タイ語: นั่น ^(th) (nân), โน่น ^(th) (nôon)
タイ・ルー語: ᦓᧃᧉ (nan²)
ダルマチア語: col 男性
チェコ語: to ^(cs)
チャミクロ語: mashala
中国語:
ドンガン語: нагә

北京官話: 那 ^(zh) (nà), 彼 ^(zh) (bǐ)
朝鮮語: 저것 ^(ko) (jeogeot)
テルグ語: అది ^(te) (adi)
デンマーク語: det ^(da)
ドイツ語: jener ^(de) 男性, jene ^(de) 女性, jenes ^(de) 中性, jene ^(de) 複数
トルコ語: o ^(tr), onlar ^(tr) 複数, şu ^(tr), şunlar ^(tr) 複数
ナヴァホ語: éí ^(nv)
ノヴィアル: te ^(nov) 男性, 女性, 中性, tu ^(nov) 中性, to ^(nov) 男性, ta ^(nov) 女性 複数形は -s を加える
白苗語: qhov ntawd ^(mww)
ハンガリー語: az ^(hu)
ビルマ語: အဲဒါ ^(my) (ʼaidā), ဟို ^(my) (hui), ထို ^(my) (thui), ဟိုဟာ ^(my) (huihā)
フィンランド語: tuo ^(fi)
フェロー語: hasin ^(fo) 男性, handa ^(fo), handan ^(fo) 女性, hatta ^(fo) 中性
フランス語: ça ^(fr), cela ^(fr)
ブルガリア語: това ^(bg) (tova)
ベトナム語: điều này, cái này, đây ^(vi)
ヘブライ語: זה‎ ^(he) 男性 (ze)
ペルシア語: آن‎ ^(fa) (ân), اون‎ ^(fa) (口語)
ベンガル語: (非公式) ওইটা ^(bn), ওটা ^(bn), সেইটা ^(bn), সেটা ^(bn), (公式) ওইটি ^(bn), ওটি ^(bn), সেইটি ^(bn), সেটি ^(bn)
ポーランド語: ten ^(pl) 男性, ta ^(pl) 女性, to ^(pl) 中性, te ^(pl) 複数
ホピ語: pam
ポルトガル語: aquele ^(pt) 男性, aquela ^(pt) 女性, aquilo ^(pt) 中性
マルタ語: dak ^(mt) 男性, dik ^(mt) 女性, dawk ^(mt) 複数
マレー語:
ジャウィ文字: ايت‎ ^(ms), تو‎ ^(ms)

ルミ文字: itu ^(ms), tu ^(ms)
モンゴル語: энэ ^(mn) (ene)
ラーオ語: ພຸ້ນ ^(lo) (phun)
ラテン語: iste ^(la) 男性, ista ^(la) 女性, istud ^(la) 中性; is ^(la) 男性, ea ^(la) 女性, id ^(la) 中性; ille ^(la) 男性, illa ^(la) 中性, illud ^(la) 中性
ラトヴィア語: tas ^(lv) 男性, tā ^(lv) 女性, tie ^(lv) 男性複数, tās ^(lv) 女性複数
ラパヌイ語: ena ^(rap), era ^(rap)
ルーマニア語: acel ^(ro) 男性, acea ^(ro) 女性, ăla ^(ro) 男性 (非公式), aia ^(ro) 女性 (非公式)
ロシア語: э́то ^(ru) (éto), то ^(ru) (to)

感動詞

あれ

意外さや驚き、不審、想定と異なる様子に気がついたことなどをあらわす。あ、あら、あれれ、おや
- あれ、なんか変だぞ。
- あれまあ、おどろいた。
(古用法) 感動をあらわす

発音

(東京式) あれ [àré] (平板型 – [0])
IPA^(?): [a̠ɾe̞]

名詞

あれ【荒れ】

荒れること。

発音

(東京式) あれ [àré] (平板型 – [0])
IPA^(?): [a̠ɾe̞]
(京阪式) あれ

複合語

動詞

あれ

「あれる」の未然形。
「あれる」の連用形。
「ある」の仮定形。
「ある」の命令形。

古典日本語

代名詞：彼

あれ【彼】

（遠くにある人・物・場所・時節などを指して）あれ。
あなた。

代名詞：吾

あれ【吾・我】

一人称代名詞、私（わたし）、われ。
- 吾（あれ）にもあらねば返しすべくも思はねど（「源氏物語」玉鬘）
  気が気ではなく、返歌をするどころではなく、（渋谷栄一訳）
  
  返歌などをする気にはなれないのであったが、（与謝野晶子訳）

語源

日本祖語 *a

北奄美大島語

名詞

あれ

(食品) 出汁（だし）。