利用者:エリック・キィ/ki/名詞のアクセント型
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キクユ語の名詞や動詞には研究者により声調のクラス、もしくはアクセントの型と呼ばれる概念が存在する。これはたとえば前後に他の語が見られない状態と nĩ〈…である〉の前か、その後ろか、あるいは ti〈…ではない〉の後ろにあるかなど他の語が存在するかによって、語の発音の仕方が日本語の高低アクセントの様に変化する現象を、いくつかの共通するパターンに分類したものである。複数の研究者によりそうした試みが行われているが、ここでは主に Armstrong (1940)、Benson (1964)、湯川 (1981, 1985) の3者を調べ、その全てで共通して同じ型に分類されているものを可視化したいと考える。とはいえ Benson や湯川(特に 1981)が扱っている語彙の数は膨大である為、まずはアームストロングが扱っている名詞のみに絞り、それを正書法で綴り直したものを Benson (1964) や 湯川 (1981) と比較して共通するものを抽出したいと思う。湯川 (1981) の名詞リストに見られるもののみを抜粋。アクセント型の呼称は原則として 湯川 (1985) に基づくが、湯川 (1981) で異なる名称とされている場合は『旧「…型」』の形で示す。
声調クラス
編集Armstrong (1940) と他の研究との比較を見る前に、まずは Clements (1984) がまとめた、自身のものも含む諸研究とのクラスの対応関係を確認する事とする。それは以下の通りである[1]。
Armstrong (1940) | Benson (1964) | Clements (1984) |
---|---|---|
moondoクラス | クラス1のうち、語幹が2音節のもの | LLクラス |
moteクラス | クラス2のうち、語幹が2音節のもの | LHクラス |
ŋgokoクラス | クラス4のうち、語幹が2音節のもの | HHクラス |
mboriクラス | クラス3のうち、語幹が2音節のもの | HLクラス |
njataクラス | クラス7および8のうち、語幹が2音節のもの | HLHLクラス |
ɲamoクラス | クラス6のうち、語幹が2音節のもの | LHLクラス |
ðiimboクラス | クラス7および8のうち、語幹が2音節のもの | HLHLクラス |
Armstrong (1940) と Benson (1964) の比較
編集「…クラス」が Armstrong (1940:356–359) における分類、数字が Benson (1964) による分類である。ベンソンは項目ごとにローマ数字で声調クラスを示しており、一部の名詞についてアームストロングと似た方法による声調の変化例を示している。語幹を1-5音節のいずれかに分け、その音節数ごとに声調クラスの分類を行っているが、#声調クラスの対応表に見られる様に、Clements (1984) は語幹の音節数が異なるもの同士は番号が同じでも別物と見做していることが窺われる。従って、ここでも語幹の音節数を区別する事とするが、母音が連続するものには音節数の判断が難しいものがあるので、それらのものは取り敢えず別枠扱いとしておく。(*)印は湯川 (1981) に取り上げられていないものを表す。
1音節語幹語
編集moondoクラス | moteクラス | ŋgokoクラス | mboriクラス | njataクラス | ɲamoクラス | ðiimboクラス | 明言なし | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kĩndũ, mũndũ, mũri, itu | gũtũ, mũtwe | mbwe, nda, ngi, ngo, (*)tha | |||||
2 | kĩgwa, rũhiũ, gĩkwa, mũkwa, kĩnya, mũtĩ, gĩtĩ, thĩ | |||||||
3 | mũgwĩ, rũhĩ, (*)gĩko, gĩkuũ, rũkũ, iru, ũta | ma, nja | ||||||
4 |
2音節語幹語
編集3音節語幹語
編集moondoクラス | moteクラス | ŋgokoクラス | mboriクラス | njataクラス | ɲamoクラス | ðiimboクラス | 明言なし | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ndigiri, (*)ngagũro, njagathi, mũrutani | kĩihũri | ||||||
2 | ||||||||
3 | mbarathi, ndũrũme | |||||||
4 | (*)mwanake, mũirĩtu, thakame, (*)thingira | |||||||
5 | ||||||||
6 | ||||||||
7 | ||||||||
8 | njeneni, (*)njingiri, (*)kĩonothe | |||||||
9 | (*)ndereti | |||||||
10 | (*)thiritũ, (*)thĩrĩga | mwatũka | kĩĩgamba, (*)mbakũri, ndigithũ | |||||
11 | (*)mwanĩki, (*)kĩrengeeri, (*)mũthambĩri, (*)thongori | (*)thũrimo | ||||||
12 | ||||||||
13 | ||||||||
14 | ||||||||
15 | ||||||||
16 |
語幹の音節数不明
編集1-2音節
編集moondoクラス | moteクラス | ŋgokoクラス | mboriクラス | njataクラス | ɲamoクラス | ðiimboクラス | 明言なし | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | mũciĩ, (*)njaũ, irũa | |||||||
2 | rũhĩa | |||||||
3 | maĩ, riũa | |||||||
4 | ||||||||
5 | ||||||||
6 | ||||||||
7 | (*)thaa | |||||||
8 | ||||||||
9 | ||||||||
10 | ||||||||
11 | ||||||||
12 |
2-3音節
編集moondoクラス | moteクラス | ŋgokoクラス | mboriクラス | njataクラス | ɲamoクラス | ðiimboクラス | 明言なし | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||||
2 | ||||||||
3 | ||||||||
4 | ||||||||
5 | ||||||||
6 | ||||||||
7 | ||||||||
8 | ||||||||
9 | ||||||||
10 | ||||||||
11 | mbũmbũĩ | |||||||
12 | ||||||||
13 | ||||||||
14 | ||||||||
15 | ||||||||
16 | ||||||||
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18 |
Armstrong (1940) と 湯川 (1981, 1985) の比較
編集声調クラス別
編集巻末語彙集の名詞一覧 (Armstrong 1940: 356–359) のうち、湯川 (1981, 1985) に見られるものとの対応関係は以下の通り。
音節別
編集Armstrong (1940:49–52) の一覧より。左端の欄は孤立形における声調である。語彙集で声調クラスの分類を確認することができないもののみリンク。
1音節語
編集低結グループ | 高結グループ | 准高結グループ | ||
---|---|---|---|---|
低型(旧「低I型」) | 昇型 | 高型 | 准昇型(旧「低II型」) | |
中 | nda, ngi, ngo | - | - | thĩ |
昇 | - | ma, nja | mbwe | - |
2音節語
編集低結グループ | 高結グループ | 准高結グループ | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
低型 (旧「低I型」) |
昇型 | 高型 | 高高型 (旧「移動型」) |
高低II型 | 准昇型 | 准高型 (旧「潜在的高型」) | ||
旧「低II型」 | 旧「潜在的昇型」 | |||||||
中、中 | cuba, huko, mbere, mondo, mũndũ, ndegwa, rũru, thiirĩ | - | - | - | - | - | mũkwa, mũtĩ, gĩtĩ | taawa |
低、高 | - | - | cuka, mbura, nderi, ngĩma, ngoro, ngoru, nguru, njũkĩ, nyaga | mũigua | nyanja | - | - | |
中、昇 | - | cũcũ, mũgwĩ, guuka, rũhĩ, gĩkuũ, rũkũ, nyamũ, iru, ũta, taata, gũtũ, mũtwe | - | - | - | - | - | |
高、昇 | - | - | - | - | mbaara, mbũthũ, thani | ciuga | - | - |
3音節語
編集低結グループ | 高結グループ | 准高結グループ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
低型 | 高低I型 | 昇型 | 高型 | 高高型 (旧「高高I型」) |
高低II型 | 旧「二峰型」[注 17] | 准昇型 (旧「低II型」) |
准高型 (旧「潜在的高型」) |
准高高型 (旧「潜在的高高II型」) | |
高、高、高 | gĩciko, igego, rũgiri, mũhiki, ihinda, rũhuho, mũmero, njagathi, kĩreru, irigũ, irima, mũthuuri | - | - | - | - | - | - | mũcinga, mũrũthi | kĩhembe, ihĩndĩ, karĩgũ, ithagu | thakame |
中、中、高 | - | - | - | maguta, mũgeka, kĩhaato, ihiga, ũhoro, ikinya, ikundo, mũnene, mũrata, rũrigi, mũrigo, mũrimũ, rũrĩmĩ, kĩrumi, mũtaro, mũturi, ũtheri, gĩthima | - | igogo | - | - | - | - |
中、高、高 | - | - | - | - | gĩtara, gĩtina, mathanwa | - | - | - | - | - |
高め、高、中 | - | mũceere, mũirĩtu, mbarathi, ndũrũme, mũthanga, mũthũngũ | - | - | - | - | - | - | - | - |
高め、高、昇 | - | - | - | - | mwatũka, ndigithũ | kĩĩgamba, kĩratũ, itũũra, gĩthitũ | - | - | - | - |
高、中、高め | - | - | - | - | - | - | njeneni | - | - | - |
まとめ
編集以上を踏まえ、Clements (1984) のまとめに湯川 (1981, 1985) を加味すると、確実に同じグループ同士となる名詞は以下の様になる。なお、資料間で母音の長さや母音、子音が多少異なるだけのものについても、意味が一致していれば取り敢えずそうした差は無視することとする。なお、太字は参考とした資料のいずれかにおいて、変化についての具体的な分析例が示されているものであることを表す。
- 1. Armstrong (1940) の「moondoクラス」= Benson (1964) における2音節語幹の「クラス1」= Clements (1984) の「LLクラス」≒ 湯川 (1981) の「低I型」= 湯川 (1985) の「低型」
- mwaki〈火〉, kĩbaata, gĩciko, cuba, mũgambo, rũgano, igego, mũgeni, rũgendo, rũgiri, igoti, mũgũnda, kũgũrũ, haaro, ihinda, mũhĩndo, huko, mahuti, ikũmbĩ, mũmero, mondo, mori, kĩmũrĩ, mboco, inooro, kĩnundu, ndaka, ndegwa, ndogo, ngũrũe, ng'ombe, njogu, nyama〈肉〉, muoyo, kĩreru, irigũ, irima, ũritũ, ũrĩrĩ, ũrogi, thenge, thiirĩ, mũthuuri, thũmbĩ, muuto, wĩra
- 計46語
- 2. 同上、「moteクラス」= 同上、2音節語幹の「クラス2」= 同上、「LHクラス」≒ 同上、「低II型」+「潜在的昇型」= 同上、「准昇型」
- 3. 同上、「mboriクラス」= 同上、2音節語幹の「クラス3」= 同上、「HLクラス」≒ 湯川 (1981, 1985) の「高型」
- 4. 同上、「ŋgokoクラス」= 同上、2音節語幹の「クラス4」= 同上、「HHクラス」≒ 湯川 (1981) の「潜在的高型」= 湯川 (1985)の「准高型」
- 5. 同上、「ɲamoクラス」= 同上、2音節語幹の「クラス6」= 同上、「LHLクラス」≒湯川 (1981, 1985) の「昇型」
脚注
編集注釈
編集- ↑ Armstrong (1940) では kereego として処理されている。
- ↑ 2.0 2.1 (II) と (IV) の2通りがあると示されている。
- ↑ Armstrong (1940:217) で複数形が maheti͜a と表記されている。また湯川 (1981:95) も -tia が-CV のように扱われていると述べている。
- ↑ Armstrong (1940) では koiɣa あるいは koiga として処理されている。
- ↑ 湯川 (1981) が仮定した「高高IA型」の名詞の中で、Armstrong (1940:356–359) の語彙集において唯一見られるのは kĩihũri であるが、これは湯川 (1985) では直接は扱われていない。ただし、同じく「高高IA型」として扱われていた三種類の名詞のうち kĩihũri 以外の二つ(mwarimũ と mũndũri の複数形である mĩũndũri)は 湯川 (1985:197) では特に説明もなく「高高型」に組み込まれている。「高高IA型」は nĩ の後ろにある場合を除いてアクセントが「高高I型」と「全く同じ」(1981:94)であり、湯川氏自身「この型の独自の存在性については, まだ若干疑問の余地がある」(同)としていた。
- ↑ Armstrong (1940) では mwaaki の形で見える。
- ↑ 湯川 (1981) では ng’ũrũwe と聞き取られている。
- ↑ Armstrong (1940) では mwɔyɔ の形で見える。
- ↑ Armstrong (1940) は ĩ を長母音で表しているが、Benson (1964) は短母音としている。
- ↑ Armstrong (1940) では mwaare の形で見える。
- ↑ Armstrong (1940) では mwaato の形で見える。
- ↑ 湯川 (1981) では rũthanjũ と聞き取られている。
- ↑ Armstrong (1940) では mwɛɛri の形で見える。
- ↑ Armstrong (1940) では moiɣwa および moigwa の形で見える。
- ↑ Armstrong (1940) では ɣekaʋu および gekabu として見られるが、湯川 (1981) で聞き取られたものは gĩkabũ である。
- ↑ Armstrong (1940) に見られる形は keɔ であるが、湯川 (1981) で聞き取られたものは kĩyo である。
- ↑ 湯川 (1981) で「二峰型」とされているものは 湯川 (1985) では「二峰型」(語例: gĩcigĩrĩra, ngũngũni)と「二峰高高型」(語例: kĩĩhuruuta, njegeeke, itarara, gĩtumuumu)とに分割されているが、njeneni についてはどちらであるか言及がない為この様な扱いとした。njeneni は湯川 (1981:101) では詳細な分析が行われており、もしナイロビ方言でもリムル方言と同じパターンであるとすれば、ナイロビ方言の njegeeke、itarara、gĩtumuumu が nĩ や ti の後で示すパターン(1985: 199, 201)と一致する為、「二峰高高型」の方になると思われる。
出典
編集- ↑ Clements (1984:334).
参考文献
編集- Armstrong, Lilias E. (1940). The Phonetic and Tonal Structure of Kikuyu. Rep. 1967. (Also in 2018 by Routledge).
- Benson, T.G. (1964). Kikuyu-English dictionary. Oxford: Clarendon Press.
- Clements, George N. (1984). "Principles of tone assignment in Kikuyu." In Clements, G.N. and J.A. Goldsmith (eds.) Autosegmental studies in Bantu tone, pp. 281–339. Dordrecht: Mouton de Gruyter; Foris Publications. ISBN 90 70176 97 1 NCID: BA00490049
- 湯川恭敏 (1981).「キクユ語名詞アクセント試論――リムル方言について――」 『アジア・アフリカ言語文化研究』22, 75-123.
- 湯川恭敏 (1985).「キクユ語名詞アクセント再論」 『アジア・アフリカ言語文化研究』29, 190-231.